表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

ファーストナイト・金の暴力は、いいぞ。

『ぴんぽんぱんぽーん!じゃじゃじゃーん!現在、11時11分11秒!イレブンナイツのお時間です!』

『お相手は、私イレブンナイツの広報担当、ミツミが担当していきます!』

『夜の部は、こちらの男性のお便りから!』

『なになに~?いじめが酷くて眠れません、助けてください!だって!』

『うーん!いじめは良くないねぇ!よくないなぁ~!』

『あーでも、この顔はもーっと良くないなぁー!あ、ごめぇん!思ったことはつい口に出ちゃうんだー!』

『よーし、リクエストにこたえて今日も行きましょう!イレェェェェブゥウウン…ナァァァァアアアイツ!!!』


「わ、わかったよ…いまから持っていけばいいんだろ、5千円」

「おう、わかれば良いんだよ。やっぱお前、顔に似合わず性格はいいやつだよな~。」

返事を聞かずに電話は切られた。はぁ・・・今日も、自分は可哀想だ。

ふと鏡を見る。父親によく似た鼻と、母親譲りの大きな顔。にきびだらけの、絶望しかない、大っ嫌いな顔。

「あぁ…マジで死にたい」

ただの口癖だ。何回もつぶやいた言葉も、その勇気が伴わなければ、何の意味も持たない。

ため息をつきながら、昼食を節約して貯めたなけなしの5000円を手に、夜の公園に向かった。


そこには、古風なヤンキーが数十人たむろしていた。田舎特有の、流行遅れなスタイル。いまどき金髪リーゼントの高校生が、日本に何人いるのだろう。近づけば近づくだけ、足が重くなる。

「おーう、来たかぁ。待ってたぜぇ、ヘッヘ」

サングラスをかけて木刀を持った男が近寄ってくる。奥では、男女様々なスタイルのヤンキーがこちらをじっと見つめてきている。

「おら、早く出せよ。お前が金を出せば、俺はお前を帰してやる。ギブアンドテイク、ってやつだっけか?ハッ」

覚えたての言葉を使いたがるのは、赤子と大して変わらない。心底軽蔑する。

そんな奴に、抵抗なく金を渡す自分。もっと、もっと軽蔑する。

「ひぃふぅみぃ・・・よぉーし、確かに、確かに。今日は機嫌がいいからかえっていいぞ~」

いつもなら、ここで殴られたりするものだが、今日は本当に機嫌がいいようだ。


「嫌ぁっ!離して!やめてよ!ふざけないで!」

後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。クラスのミイナちゃんだ。ヤンキー達に手足を持たれて動けないまま連れてこられたようだ。

「あ…アオダ君…助けて…」

自分を見つけて、一瞬助けを求められると思ったのだろう。しかし、いつもの自分がいかに非力であるかを思い出したのか、助けを求める声はだんだん小さくなった。

「落ち着けよミイナぁ。大学受験だか何だか知らないけどさぁ、こんな時間まで外歩いてたら危なくなぁい?まぁまぁ、せっかくだから遊んでいきなよ。喜ばせてやるからさぁ」

下卑た笑みを浮かべる男。指をクイクイとする仕草。本当に、軽蔑する。


「で、君は何もしないのか。他人頼りじゃ先に進めないぞ~、“いじめられっこ君”」

ふと、耳元で何かが聞こえた気がした。慌てて振り返るも、そこには何もいなかった。


自分でも何を思ったか、何かネジが飛んでしまったのか。

気が付けば、近くに落ちていた金属バットで、ミイナの足を持つヤンキーの頭を殴り飛ばしていた。


「痛っ・・・てぇなああああてめええええええ」

体が宙に浮く感覚。腹に走る鈍痛。あぁ、結局今日もこうなるのか…馬鹿だなぁ、俺。

本当に、馬鹿だ。

こんなことで前に進めるなんて、そんなのはドラマの中だけだって知ってるだろうに。

あぁ、報われないなぁ、本当。



『いれーぶーんなーいつ』

アクセントのない声が響いた。と同時に、四方八方からサーチライトが照らされる。

あまりの眩しさにヤンキー達はたじろぎ、ミイナを掴む力が弱まった。

―今しかない。そう思った。

周りのヤンキー達をタックルでなぎ倒し、ミイナを引っ張り出す。案外上手くいった。

「うぉっ…何しやがるてめぇ!」

鉄パイプが脳天に振り下ろされる―音はしたが、その痛みはいつまでも来なかった。


「暴力はいいよなぁ、うんうん、わかるぞ」

鉄パイプを細剣で軽く支える、騎士の兜をかぶったスーツ姿の女性。

「本当に強いものが、弱いものを叩き潰す方法。それが暴力だよアオダ君。」

その女性が語り掛けてきた。驚きで、返す言葉がない。

「君は強い。そうしてミイナちゃんを助けることができたんだ。勿論、私よりははるかに弱いがね」

そういうと、鉄パイプを軽く払ってしまった。ヤンキーはたじろぐ。

「な、なんだぁこいつは…!?」

すっと、静かに喉元へと剣先が向けられる。ヤンキーは動けず、しゃべることもできない。周りの奴らも、武器をそれぞれ握ってはいるが怯えた感じだ。

「それで?お前たちはどうなんだ?散々こいつのことをコケにしてきたんだろう?さぞかし強いんだろうな。楽しませてくれよ、視聴率のためにもな」

そういうと、彼女はそのまま構えていた剣をヤンキーの喉仏に突き刺した。

「がっ、ごごご・・・」

ヤンキーが一人、血反吐を吐いて倒れた。女性のヤンキーは逃げて行こうとしたが、いつの間にか公園の周りに大きな壁が作られていて出ることができない。


『おいおい、こういう金にまつわる話の時は、俺の出番だろ。あんまり殺してくれるなよ、レイヴン』

メガホンを通した声が、だんだん近づいてきた。

「わかったわよ。お好きにどうぞ」

騎士面の女性は闇夜に解けるように消えていった。それと入れ替わるように、騎士面にスーツ姿、さっきの女性と同じ姿の男性が出てきた。ただ、スーツの色は真っ白でネクタイは赤。少し、趣味が悪い。


『えー、こんばんは。イレブンナイツです。俺の名前はニキ。金持ちです。自己紹介おしまい。』

間の抜けた声だ。あっけにとられるヤンキーをよそに、話を続ける。

『君たちは暴力で金を得ようとしたね?悪くない。金はどんな手段をもってしても得るべきだ。だからそんな感心な君達には、金の暴力というものを見せてやろうじゃないか』

暗闇から影が飛び出してきて、アオダとミイナを連れ去った。今この空間には、ヤンキーと悪趣味な男だけになった。



「やるじゃないか。俺が耳打ちしたのが良かったのか?」

アオダを片手に抱える影が言った。

「え、あれは幻聴じゃなかったのか…」

「おうよ。もしあのままお前が帰るんなら、まぁその程度の男だ。助けないでやろうと思っていた」

「でも、アオダ君は助けてくれた。ありがとうアオダ君。」

反対側に抱えられるミイナが声をかけてきた。気が付くと、自分たちはいつもの住宅街の交叉路に立っていた。

「そ、その…ミイナ。お、俺さ…」

今なら、言えるかもしれない。一歩、先に進むんだ。

「君のことg」

「あ、そういうのはマジで無理なのでごめんなさい。でも、友達としてなら。これからもずっとよろしくね!」

そういうとミイナは家の方に走り去っていった。振り返りながら見せる笑顔に、苦笑いで手を振る。

あーやっぱり、一歩なんて踏み出さない方がいいんだ。でも、なんかすっきりしたなぁ…



ヘリの音が公園を囲う壁の中にこだまする。

『よし、特に話すこともないからこの辺でお開きにしよう。ゆっくり楽しんでくれ、俺からのささやかなプレゼントだ。それじゃあなー。達者でなー』

ヘリから降ろされた縄梯子に捕まると、その男は空のかなたに消えていった。


「…なんだ、これ」

ヤンキーの一人が、紙切れを拾った…一万円札だった。

「うぉぉ!こっちにも落ちてるぞ!拾え拾え!」

ヤンキー達はさっきまでのことや死んだ奴のことなど忘れてしまったかのように騒ぎたてた。

上空から、紙幣や硬貨が降り注ぐ。それはだんだんと増えていった。その額は尋常ではない。特に硬貨の数はすさまじかった。一円玉の山が、そこかしこにでき始めた。

「お、おい…これ、マズいぞ」

壁の中に、紙幣や硬貨が水のように溜まり始めた。男の残したプレゼントに、金の暴力…このことだろう。

「やばい、足が沈む!これ、上手く立てねぇ!」

紙幣と硬貨がランダムに重なった地面は、泥沼のようにヤンキー達の足をからめとった。

さらに、ヤンキー達のポケットはぱんぱんに膨れ上がるほどの紙幣が詰め込まれている。重くなった体は、どんどん沈んでいく。

そこに、ドサァ…という音がした。札束の塊が落ちてきたのだ。その下敷きになった奴が、うめき声をあげている。助けようとしても、自身の足が動かない。やがてそのうめき声は聞こえなくなった。


金の山は足をふさぎ、腹をふさぎ、喉をふさぎ、ついに口元をふさいだ。その間にも金は増えてゆく。鼻の穴を、じわじわと塞いでいった。

「・・・・!」

息が、出来ない。もがいても全く動けない。今まで人に与えた苦しみが、全て自身に返ってくる感覚。

ついに、壁の上にふたがされた。真っ暗な中、ゆっくりと窒息していく。

遠くなる意識の中で、少女の声が聞こえた気がした。


“種も仕掛けも、たまにありません”



次の日の朝は憂鬱だった。確かに昨日はすっきりしたが、今日あいつらに会うことを考えると、どう考えても無事では済まないだろう。変なことをしなければよかったと後悔していた。

「あ、おはようアオダ君。せっかくだから、一緒に学校行かない?わたしも怖くって」

家の前に、ミイナが待っていた。びっくりして、冷や汗が出る。なるべく動揺を見せないように、平静を装う。

「おはよう。いい天気だね。じゃあ行こうか」

なんか、いい感じのセリフが口を突いて出た。昨日の出来事があって、本当に良かった。


「おはよう、ムツキくんにナナエちゃん。お元気?」

ミイナが声をかけた。クラスメートのムツキに、妹のナナエ。

「…おはよう。」

「おはよう!二人が一緒なんて珍しいねぇ。昨日、何かあったの?」

核心をついてきた。俺とミイナはお互いに見合って、フフ、と笑った。


それを、ムツキとナナエも心の底でにやけながら見ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ