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プロローグ・イレブンナイツ、見参!

『ぴんぽんぱんぽーん!じゃじゃじゃーん!現在、11時11分11秒!イレブンナイツのお時間です!』

『お相手は、私イレブンナイツの広報担当、ミツミが担当していきます!』

『夜の部は、こちらの女性のお便りから!』

『なになに~?路地裏で大ピンチです、助けてください!だって!』

『これは面白s…楽しそうだね!あっ違う!大変だね!』

『よーし、リクエストにこたえて今日も行きましょう!イレェェェェブゥウウン…ナァァァァアアアイツ!!!』



「ハァ、ハァ、ハァッ…」

夜の大都会、路地裏は真っ暗だ。その中を、一人の女子高生が走り抜けていく。

「おらおら待てェ!ちょっとだけ、ちょっとだけ付き合ってくれたらいいんだよぉ!」

その後ろから、鉄パイプをもった男たちが追いかけている。

「うわっ、てってっ…」

女の子が空き缶に躓いて転んでしまった。なんと不運なことだろう。

ああ、きっとあんなことやこんなことをされるんだろうなぁ…○ロ同人みたいに。

そう考えると、恐ろしさで立てなくなってしまった。

足音はどんどん近くなってくる。

「つかまーえた。ヘヘヘ、大人しくしてりゃ怪我はしねぇよ」

がっちりした体格の男に腕を掴まれる。ああ、もうダメだ…


『いれぇーぶぅーんなーいつ』

気の抜けた声が、メガホンを通して聞こえた。それと同時に、辺りが一気に眩しく照らされた。

驚きからか、男が女子高生の腕を離した。その隙に黒い影が、彼女をどこかへ連れて行った。


「えっ、ちょっと何…!?」

「静かにしてろ、本番中だぞ」

「えっえっ、何…本番…えっ?」

「いいから落ち着け。何かしようってわけじゃない。ほら、大通りに出たぞ。気を付けて帰れよ」

気が付くと、彼女は大通りに立っていた。さっきまで彼女を連れてきた影は、いつの間にかいなくなっている。

「…えっ、何?夢…?」


『いれーぶーんなーいつ…これいつまで言えばいいんだ?』

男たちは逃げようとしたが、出来なかった。いつのまにか四方を黒い影に囲まれている。

「別に一回言えば大丈夫でしょ。さて、リクエスト曲をそろそろかけなきゃいけないよね」

くぐもった女性の声が聞こえる。男たちがその方を見ると、暗闇の中から人間が出てきた。

すらっとした体によく似合うスーツ、その顔は中世騎士の兜でおおわれている。

「なんだなんだ、何だってんだよ…!楽しみを不意にしやがってぇぇぇ!!」

男が威勢を張って叫ぶが、虚勢にしか見えない。鉄パイプをにぎる腕は震える。

「はじめまして、イレブンナイツです。んじゃ、リクエストに応えられるような、最高の音楽をくださいねー」

声質とは裏腹に、その見た目の異様さから現れる威圧感が凄まじい。


「はい、さーん、にーい、いーち、死ね」

騎士面の女性がいきなり男たちの目の前まで迫った。気が付けば、一人の首がなくなっている。

「…!貴様ぁぁぁ!!!!」

男たちは一斉にその得物で殴りかかった。しかし、その手にはなぜか何も握られていない。いきなり軽くなった腕を思いっきり振った結果、彼らはバランスを崩して倒れてしまった。


「種と仕掛けはーたまに、ありません」

また暗闇から騎士面の男が出てきた。その腕にすがる、これまた騎士面の女の子もいる。

「たまに、ありません」

可愛らしい声が聞こえた。女の子の手には、彼らの鉄パイプが握られていた。

「なッ、てめぇ、いつの間に…」

男たちは困惑した。立ち上がろうとしたが、彼らの目の前に刺突剣が向けられていて動けない。

「動くんじゃない。また、首を飛ばされたいかぁ~~???」

煽るように覗き込む女性。

「首を飛ばすって、お前…その剣でどうやって」

「うるせー、だぁーってろ余計なことべらべらしゃべりやがって」

さっきまで丁寧な口調の女性だったが、今では見る影もない。まるでおっさんの様になっている。

「ふっふーん、このナナエさまとムツキさまにかかれば、お前たちなんてなんでもないんだからねー!」

べー、という仕草を兜の上からして見せる女の子。隣の男の腕はしっかりと握られたままだ。


「…んじゃ、そろそろ〆るか」

「おっけー。ムツキー、いつものいこう」

「わかったよナナエ。じゃあイレブンナイツ人気コーナー、ムツキとナナエのマジックショウをお楽しみください」

『まぁーってましたぁ!パチパチパチパチ!』

近くのゴミ捨て場におかれていたラジオから、大きな音が聞こえてきた。

「それじゃ、まずは手始めに首の回るアレ、いってみようか。」

ムツキと呼ばれていた男が、地面に伏せっている男たちの中から一人選んで、その頭に筒のようなものをかぶせた。

「なんだこれ…畜生、何しやがる!やめろォ!」

男は必死に抵抗する。が、いつの間にかはめられていた手錠と足枷のせいで、うまく動けない。

「マジックなんだから、手錠と足枷は当然でしょ~?」

「よし、準備は出来ました。さて、今この筒の正面には、穴が開いていますね。やぁ、前が見えているかい?」

男の顔に向かってムツキが手を振る。ナナエと呼ばれた女の子もそれに倣って手を振った。

「では行きましょう、この筒を回したらどうなると思いますかー?」

「うーん、顔ががっちり固定されてて、首が回っちゃいそうだねぇ。あ、でも人間の首って、そんなに回らないよねぇ」

女の子がわざとらしく困った顔をして見せる。筒をかぶせられた男は、不安と恐怖で汗が吹き出し、震えが止まらない。フスッ、フスッと息遣いが荒くなっている。

「ですよねぇ。では、実際にやってみましょう~…あ、先に言っておきますが。種も仕掛けも、“ありません“」

「な、なぁ・・・俺は大丈夫なんだよな、これってマジックなんだよな!?なぁ!」

怯えた声で男が聞く。それに、ナナエが応えた。

「え、聞こえてなかったの?種も仕掛けも、ないんだけど」

その瞬間、ぐるんと筒が回された。ゴリィィィィッ!と何かが砕ける音がした。一周して戻ってきた男の顔は、白目をむいて血を口から垂らしていた。

「はーい、見事に首が回りました~。すごいすごい、意外といけるもんなんだねぇ~」

そういうと、まだ残っている4人の男たちに顔を向けた。

「それじゃあ、ほかのみんなでもやってみようかぁ」


「――ッ!ブフッ、オブッ!」

最後に残された一人は、それまでの凄惨な光景を目の当たりにして言葉が出ない。ありとあらゆる穴から、漏らせるものは漏らしていた。異臭が漂う。

「そうだねぇ、いつまでも同じマジックじゃあ飽きるかぁ」

ナナエが言い出した。

「そうだね、最後は大魔術で終わろうか」

そういうと、ムツキはどこからか大きな箱を取り出した。

「では、最後に披露するのは、人体バラバラ脱出マジックです」

「わぁい!」

「まずはこの箱に、人間をどんどんぶち込みます」

そういうと、筒を被った死体を次々と箱の中に入れていった。

「い、嫌だ…!俺はまだ死ねない!やめろ、やめてくれえええ!!!」

最後の一人は必死に抵抗したが、その甲斐もなくあっさり放り込まれた。

「安心しろって。種と仕掛けは、たまにないって言ったろ」

箱のふたを閉める直前、ムツキが静かに語りかけた。

「うげぇ…やっぱあんたら、趣味悪いよねぇ」

細剣をしまいながら、騎士面の女性が言った。

「えー?そんなことないよぉ。どっちかと言えば、優しい方だって思ってるけどなぁ。それじゃあ、このマジックで証明してあげるよ!さぁ、ムツキ、あれをチョーダイ!」

そういうと、ナナエはムツキから大きな剣を受け取った。おっとっと、とバランスを崩す。

「さぁ、今からこの箱を、私がバッラバラに切り刻みます!果たして中の人たちはどうなるのか!種も仕掛けも、“たまにありません”!」

箱の中から、一つ悲鳴が聞こえた。その瞬間、箱は真っ二つになった。

「あっ、間違えて一発で壊しちゃった…まぁいいか!マジックは成功です!」


箱の中は、からっぽだった。




「なんだったんだろうなぁ、やっぱり夢だったのかなぁ」

カフェの中で、女子校生が話をしていた。

「変な夢見るねー。しかも道のど真ん中ででしょー?なんかのビョーキなんじゃないの?アッハハ!」

「うーん、夢にしては妙に現実味あったなー。最後のあの影、めっちゃ温かくて声もかっこよかったわー。夢じゃなかったら惚れてたなー。もったいない」

ずぞぞー、とシェーキを飲み干す。


「だってよ、ヨミ。ほれ、今から話しかけたらきっと告白されるぜ」

女子高生の後ろの席で、男二人が話をしていた。

「そんなのはどうだっていいんだよ。ほらグダグダいってねぇで早く飲めよ。11時になっちまうぞ」

「わーったわーった。ったく、忙しいったらありゃしねぇな。…あ、おい。あれ見てみろよ」

男の一人が窓の外を指さした。


そこには、廃人になったようにうつろな目で歩く、昨夜の男たちの姿があった。


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