006 貴方の心からくるものは、人の心を動かす。 ドン=シベット
「うーん、多分だけどそんな施設は街中にはないと思うわ」
「何故?」
疑う事も茶化すことも無く考え、そうしてだした結論を淡々の述べる女にエフォーは少なからずの好印象を抱くと同時に、何故、あの城にいた者達はあそこまで歪んでいたのだろうと疑問に思った。
経済面で言えばあちらの方が豊かであっただろうに、金持ちの余裕とというものがまるで感じられず、それどころか懐の深さで今目の前に居る男を見る目が少し残念なこの国ではなんら珍しくも無い女に負けているのだろう。
(欲するモノがてに入り過ぎて、欲に歯止めが効かなくなったのかな)
エフォーは気付いていないが、“貴方の心からくるものは、人の心を動かす。”というドン=シベットの言葉の通り、エフォーの心から助け出したいと思う心が女の心を動かし、真っ暗な道の中で周囲を照らす灯を受け取ることが出来るのだ。
それが正解か否かは、別にしてだが。
「えっと、逆に聞くけどその拘束されている人は何人?」
「約四〇〇人、かな」
「じゃあ、収容される人が出る周期は?」
「これは私の推測の域を出ない情報だけど……多分、毎日」
女からされる質問に、エフォーは出来るだけ正確に答えようとするも、如何せん自分の持つ情報は入手経路が曖昧なら信憑性も無くて、どうしても機械的な返答を返す事が出来ない。
機械でありながら曖昧さを取り入れられたのは良い事なのかもしれないが、機械でありながら求められたことに答えられないのは問題だと考えている為、答えた後も歯がゆさが残る。
「ならやっぱり無いわね」
「その心は」
女は、そんなエフォーの言葉から結論付けて話を進める。
エフォーは自分に求めるレベルが高過ぎて、それに満たないとその行動が失敗であるかのように結論付けるが、会話する上で他人からの情報に一〇〇パーセントなんて求めていたら決定されていることしか喋れなくなってしまうように、人は他人にそこまで完璧を求めない。
エフォー自身、他人にはそれを求めないのだから、自分にも求める必要はないと思えれば良いのだろうが、そういうことを出来ないのはエフォーが兵器たる所以である。
「この国って割と豊かで浮浪者とか殆ど見ないのね、後、奴隷も認めてないから、身形の汚い人とかそう目にしないの。見るとしたら、囚人の公開処刑位……まあ私は見たこと無いんだけどね」
「それで?」
「で、街の中で君みたいに変わった服装の人は見た事ない。それと、囚人服の人もね。それにそもそも兵士に連行されてるまでになった人はココ一ヶ月位出てないの」
「ふむふむ。つまりは街中でそういった場所へ異国人を連行する姿を見た事が無いと」
「そういうことね」
街中にそういう施設が有ったなら、城で召喚されている以上街中で被害者を兵士が連行する姿が見れない筈は無く、また四〇〇人も収容されている場所ならば結構大規模な物となる。
当然、収容されても理不尽に対する怒りが消えない被害者達は大騒ぎするだろうから、街中には無いだろうと女は考えたのだろうとエフォーは予測する。
「……けど、君が見てない所でっていうのもあるんじゃないかな?」
「フフン! 主婦はね、独自のネットワークを持ってるモノなの! 町の隅から隅まで、少しでも異変があったら噂として私は知ることが出来るのよ、小さな事件の一つでもね?」
「す、凄いんだね、僕らでも町中の情報を知ることは出来ないよ」
(個体数がそれ程多い訳じゃないから、町中に配備して脳内で電子ネットワークを形成出来たとしても得られる情報は限られて来る。一応、情報の信憑性は此方の方が上……いや、聞き取り調査をするのであればそれも怪しいかな)
それならば確かに、そんな目立つだろう施設が噂にならない訳も無い。
そう考えると建設中も町民に見られない場所でなければならないだろう、それも、城からそう遠く無い場所。そう考えたエフォーの中には二つの可能性が導き出される。
「そう、女は凄いの! ……で、だけど。街を除外すればこの国でそんな収容施設を建てられる場所は一つしかないの」
「森かい?」
「正解! この街って街壁をU字に囲うような感じで森が広がってるんだけど、街の外だから情報の網にも引っかからない」
そして、もっとも可能性が高いだろうと予測した森を口にすると、女も同意見だったようで頷いた。
「うーん、でも俺ってばさっきまで森の中を探索してたけどそんなのある風には見えなかったよ?」
エフォーは念の為、パッシブで探知機能を起動させていたのだが半径五キロ圏内にはそれらしい建造物の反応は無かった。
それに、エフォーの考えていた被害者による自給自足説。
アレを踏まえて考えると、エフォーの通って来た道だけがそうなのかもしれないが、食べられそうな成分の植物が殆ど見つからなかった為、あそこで自給自足することはできないのではないか、そうすると自給自足説は成り立たなくなるのだ。
「そうなの? んー…………あ、探索したってことは子供と鉢合わせしなかった?」
「子供? いいや」
一応、生体反応は有ったが全て四足歩行のモノばかり。
まさか子供は四足歩行で移動する、という訳じゃないよな、なんてエフォーは頭の中で冗談を言う。
「じゃあ貴方が探索してたのは……え、襲われたりしなかった?」
「襲われる? 何に」
「えっと……なんかこう、トゲトゲしててデカくて堅そうな狼みたいな奴によ」
「……それはアルミラージの亜種か何かか?」
「あるみらーじ? 多分違うと思うけど、とにかく狼的な何かによ」
植物の生態が違うのだから動物の容姿も違うのだろう、進化の過程でそうならなければならない理由があって、ここの世界で狼は巨大で刺々しく堅い皮膚を手に入れた、という自己解決がエフォーの中で成される。
「いいや、何故?」
「……ま、まあ今それは良いわ。じゃあ、貴方が調べたって言うとことは反対方向に行ったら何か分かるかもしれないわ。……あ、反対っていうのは門から出てU字のさっき君が入って行った方じゃない方ね。君が行ったのは多分門からでて右だから、今度は左」
これから森に行く事になるだろう人間にとってその情報は必須じゃなかろうか、なんて思いもしたが、自分には当てはまらないことだからまあ良いかとエフォーは流し、話を進める。
「それは今言った子供が関係しているのか?」
「してると言えばしてるわね。(どちらも同じ森だけど)左の森は、子供が遊び場にしてるのよ。親が幾ら危険だから駄目って言っても聞かずによ? ……それはともかく、左の森に関しては子供達の方が詳しい位なの。だから森で遊んでいる子達に聞けば何か分かると思うの」
「把握した。残る可能性はその左の森だけで、そこに詳しい者もそこに居る。だから私はまず動けばいいと、そういうことだね」
「そういうことよ。……って、あくまでこれは私の見解だから、あんまり信用されても困るからね?」
「いや、この土地の人の見解より我の見解の方が優れている通りは無い。ありがとう、早速行って見るよ」
話は、これで終わりだろう。
エフォーが立ち上がると女も立ち上がり、頭を使って疲れたのか体を伸ばしながらに言う。
「もうそろそろ子供達も帰ってくる時間だから、森で会おうとするなら急いだ方が良いわよ?」
「了解した、じゃあ……」
「おい、ルーリナ」
「え!? サザ!?」
話を切り上げ、後は解散という狙い澄まされたようなタイミングだった。
先程女を置いて何処かへ消えた筈の男が戻って着ていてしかも明らかに女を迎えに来た風なのである。
そんな男の様子にエフォーは意地悪い笑みを浮かべると、からかうようにして言った。
「……おぉ? 一体どういう風の吹き回しだい? 暴力亭主君」
「うるせぇNTR王子。俺の嫁口説いてんじゃねぇよ」
男は鬱陶しそうにエフォーに言葉を返すが、近づいてきた女を見ると気まずそうに眼を逸らす。
「サザ……?」
「………………行くぞ、ルーリナ」
男はそれだけ言うと歩き出してしまい、女は溜息混じりに言う。
「……はいはい、分かったわ」
そして最後にエフォーの方へ振り向き告げた。
「じゃあね国賊君、助けられると良いね」
「うん、ありがとう」
男と女、夫と妻。二人は微妙に合わない歩幅を互いに合わせようとして逆にずれるということを何度も繰り返しながら、エフォーの視界から完全に消えた。
男の心変わりの理由は、エフォーにはさっぱり分からなかったが男のモノの見方が少し変わって女と円満な夫婦関係を築けるのなら、いや、希望的観測でしかないのだから築ける可能性を見出したのなら、自分と彼らが繋がりを持った事は幸運だったのだと思った。
「ルーリナにサザ。……うん、記憶した」
エフォーはそう呟いてから、自分のすべきことを行動に移すのだった。
ストックがない~♪
予約投稿意味が無い~♪
投降したのは18分前~♪
正月休みだから出来ること~♪