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004 アイデアの秘訣は執念である。 湯川秀樹



 〈星粒子デァシュテルンタイルヒュン

  これは過去、ドイツに落ちた隕石から絶えず放出され続けた目視出来る微粒子であり、最初は一つ一つが光を放つだけの光子かと思われたが研究の初期段階でそうでは無い事が発覚、研究が進むにつれてその有用性が明らかになっていったがその時代には未知の物質であったものである。


 まず第一に化石燃料に代わるエネルギー源となり得た、第二に木材や鉄といった物に代わる素材となり得た、そして第三に、アルミラージに有効な武器となり得た。


 三つ目の理由からそれが見付かった瞬間から〈星粒子〉はエフォーの様な兵器に引用され、同時に巷で出回る商品の殆どがそれに依存出来てしまうような状況に陥る程、兵器にも成り得るそれの汎用性は凄まじかった。

 〈星粒子〉は〈恩恵石(グナーデ メテオーア)〉と名付けられた隕石より無尽蔵に生み出されたが、人類はいずれその恩恵が受けられなく事を危惧し、そして自らの手でそれを生み出すことの出来る装置〈箱〉を造り出したことによりめでたく博物館行きしたのである。

 元々〈恩恵石〉はON、OFFが出来なかった為にエネルギー源とするには様々な問題があった、エネルギー貯蓄量以上に放出される〈星粒子〉のせいで、初期段階の〈恩恵石〉一欠けらを内蔵した兵器は常時〈星粒子〉の垂れ流しで戦場へ投入することは出来ても帰還さようとすると戦闘行為によるエネルギー消費が出来ないせいで帰路の途中に暴発することが多々あったのだ。


 その頃はまだ、兵器に感情は無かったが一体の製作費は日本円で約八億、とてもじゃないが使い捨て出来る金額じゃないにも関わらずそうするしかなかった。

 取り外しが簡単であったならその様なことも無かったのだろうが、残念ながら構造上そんな造りにすることは現代であっても不可能だった。


  ……故に〈星粒子〉を生成するだけでなくON、OFF機能を付けることにも力を入れたともいえるし、まあ今だと戦から帰ってきた戦士から勝手な都合で武力を取り上げるなんて非人道的だ、なんて言われるのだろうが。

 そしてエフォーに備わった〈星粒子〉を主とする装置は絶対に完全に無欠に完成したのだと科学者は言った。何代にも及ぶ研究の末ついに完成したそれは万能性に置いて次元が違うレベルで特化していた。



 “アイデアの秘訣は執念である。”湯川秀樹は言った。

 人間の、生への執念を原動力にされて生まれたアイデアは素晴らしいものであったのだろう、その証拠に人間はエフォー達のような人間を生み出す事に成功しているのだから。

 その技術力は神に近付く事が叶ったのだから。

 と、すれば人間を食らうアルミラージは人類が神へ昇格する為に現神が地上へ遣わした試練だとでもいうのだろうか。


 まあしかし、もしそうだとしたならば人間社会に置ける神を主とした宗教は瓦解することだろう。

 数千年に及ぶアルミラージによる蹂躙は人間達に悲劇を生み過ぎた。



 悲劇の上に人は発展することは可能だろう。しかしそれで主に感謝する気にはなれぬのだ。

 人は進化よりも、幸福を望む生き物なのだから。






 エフォーの跳躍は、一〇〇メートルという距離を軽く超えて尚且つ高さも稼いだ。

 これが夜なら光を振りまく美少年が絵になっただろうそんな光景を目撃する者はいない。

 というか目撃者の出る可能性がある場合にはもっと別の手段で誰にも見つかることなく城の外へ出ることを選択していただろう。


 城壁の上はどうやら上から見渡せる造りになっているらしいことを着地して知ったエフォーは、見回りの兵士に見つからぬ内に街の方角を確認してから急ぎ城壁から飛び降りる。

 街へ繋がる城門の反対側に自分の居た場所は有ったことには何かしらの作為的な何かを感じざるを得ないが、あの鎧の男にそこまでの知恵があるとは思えないし、恐らくは建築段階でそうした意図を持たせたのだろうと納得する。



 城壁を降りると森だった。

 ここはどうやら城を街の一番奥に置く形で街が出来上がっているらしい、城を取り囲む様に造った方が防衛面で穴が少ないだろうと思うエフォーだが、愛着の湧く気がしない国であるが故にどうでもいいという結論で考えるのを止める。


「見たこと無い植物ばかりだ、生態調査とかしたら楽しいだろうなぁ……ここを焼野原にしなきゃいけない状況になるのは勘弁して欲しいな」


 エフォーは該当するデータの無い草木に興味を示すと同時にこの後自分がすることになるであろう可能性のあるモノの中の一つを考えてため息を漏らす。

 この地へ来たのは想定外のことで、本当なら自分は今すぐにでも元の場所へと戻り、アルミラージ討伐をしなければならないのだが、今迄該当するデータが無かったことの無い所で生活して来たエフォーには、本当の意味で全く知らないもののある世界は女性にとっての宝石箱に等しく、途轍もない魅力を秘めていた。


 この地でなら自分はゼロから知ることが出来るのではないか、そう考えると帰還を躊躇してしまうエフォーは一度自分の思考をクリーンにして考えることを止め、森を抜ける事を優先させた。


 ちなみにこの思考は勇者型兵器全般に言えることではなく、エフォー独自の思考によるものだ。

 普通、人類全ての英知を持っていた筈が急にひっくり返って全くの無知者になった時感情を持つ者なら誰でもパニックになる。

 機械の冷静な思考を持っているなら尚更だ。

 エフォーは気付かぬ内に自己の柔軟な思考に救われていたのだった。



 森は、城壁を伝って歩いて行けばすぐ抜けた。

 結構深い森だったが、この国が攻められる時はこの森を利用されて街より先に城が落とされるんだろうなとエフォーは思った。


 そうして街に辿り着いたのは一時間後のこと、結構時間が掛かってしまったから急がなきゃならないだろうなと思いつつ、エフォーは旅人の荷物に紛れて入口から難なく町へ入場し、ばれない内にその場から離れた。





「わー……見事に文字読めナーイ」


 そして、看板や掲示板といった文字媒体を見てみたところエフォーの持つ文字情報の中には存在せず刻まれている文字であろうモノは記号の羅列にしか見えない。


「なーんじゃこりゃ、アハハー全然わかんねー」


 最早声に出して笑うエフォーだが、文字を読めないと言うのは結構問題で、ある程度の法則性を知ればそこから逆算して文字を理解することも出来るのだがそれには最初に幾つかの単語の意味を教えてくれる人を探す必要があるし、その後幾つもの本を読んで覚え残しが無いようにしなきゃ今後の展開によっては困ったことになる。

 というか、言葉には当てはまるモノがあるというのに文字はかすりもしないなんてそんなことがあるのだろうか? いや、実際にある訳だけど、なんていう自問自答を繰り広げる訳だが余りに不毛過ぎてすぐにやめる。


(さっきの植物もそうだけど、ここは私にとって予想外の事ばかり起こる。ハハ……漸く歳を取り始めたって気がするよ)


 知る事の積み重ねが生きると言う事。

 それはエフォーにとっての人生論で、今迄は生まれたその瞬間からご老体になった気分で今は生まれ変わった気分だろうか。

 しかし、それはそれとして、そんな感傷に浸っていても文字が読めないという事実は変わらない訳なのだが。




「何でアンタは人の話を聞かないの!」

「だから聞いてるっつーの!」

「じゃあ今朝私がなんて言ったか言って見なさいよ!」

「あーうるせーうるせー!」

「ちょっと! 答えなさいよ!」

「うるせっつの!」


「およ?」


 どうしたものかと考え始めたところで、男女の怒鳴り声で其方を向くとそこでは若い男女が言い合いしている姿があった。

 言い合い、といっても男の方は女の方を見もしないで前へ前へと進んでいて、女が怒鳴り散らすのに対してウザったそうに返すだけだが。



(丁度いいや、あの人達に被害者達の居場所を尋ねてみるか)


 エフォーは空気を読むという人間社会に置いては必須スキルとも呼べるであろうそれを思考の海の奥深くへ沈めて、明らかに気が立っている二人に近寄って行った。


 説明回でした。

 エフォーのスペック一部公開ですな。

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