001 あめつちの初めは今日より始まる。 北畠親房
メリィィィッィイッィィィィ! クリスマァアァァ゛ァ゛ァァ゛ァァアスゥゥゥゥ!
ヒャャァァァッハッハッハァァァッ!
良い子(非リア充)に黒米サンタからの贈り物だぜぇ!
※本編はかなり真面目な感じで行きます。
エフォーは兵器である。
一〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇体目にして人類にとっての外敵たる『アルミラージ』を殲滅する為に造りだされた科学の結晶にして今の社会における第二の人類、否、人類を超えた新たな霊長類たる生物である。
エフォーには兵器でありながら『心』がある。
それは今の社会に置いては当たり前のことであり、だからこそ生物と認め、人々はエフォーとそれらを人類の上位種であることを認めた。
そんな社会で生きて来たエフォーだったが、エフォー自身は自分が他人より勝っているとは到底思えなかった。
知識はあるが、教養が無く、破壊力はあるが、力が無い。
そんな自分が自らの将来に数多の希望を抱く人達に勝っていると何故考えられるのか。
仲間達の見解はエフォーとは正反対、誰よりも勝る自分達は劣等種たる人間をお情けで助けてやっていると考えている者が殆どで、エフォーの考えは仲間達が言うところの劣等種たる人間にも話したが言葉の意味が分からないという次元で理解は得られなかった。
自分達は貴方方が生み出した兵器に過ぎなかったではないか、にも関わらず何故そんなにも卑屈なのだ。
情けないと言う気持ちからエフォーは自分が上だとは考えないが、人間が上だと考えるのも止めた。
そして、事の始まりはアルミラージとの戦闘中だった。
エフォーは、死とは別の方法でそんな世界からの退場を強いられる。
あめつちの初めは今日より始まる。
北畠親房
◆◆◆
状況をまるで呑み込めないエフォーだが、そんな中でも抜け目なく周囲を観察してみても周囲の人達が着ているような黒に金といった派手な装飾のローブにこれまた派手な装飾と先端に付いた大きな宝石がトレードマークであろうスタッフを持つ人やら時代錯誤な鉄製の重量感タップリで尚且つ着る人を選びそうな鎧を着て此方へ興味を示しながらも棒立ちのままな人、その他もろもろ全部総合して、頭の中にある情報を照らし合わせたが全世界何処にも当てはまる服装の民族は出てこなかった。
自分の下に描かれている魔方陣、これまた時代錯誤な民族的儀式の匂いがプンプンするというのに過去数千年遡っても周囲の人達の立ち位置と格好、今日の星の廻りから成り立つとされた儀式の存在は見受けられなかった、掠った儀式もあるには有ったのだがそれはそもそも魔方陣の模様や文字の違い等が明らかである為真っ先に検索対象から外された。
というか、行われたのはこんなオカルト染みた行動からは決して成し得ない瞬間移動なのだから周囲にここへ来る前まで科学技術とは縁遠い森林内を高速で移動中だったエフォーを座標の狂いなくこの場所へ物理法則を無視した転送を成し得る装置が周辺におかしいと思い、更に念入りに周囲を観察してみたがそれらしい装置を感知出来ずに首を傾げる。
取り敢えず何時までも座り込んでいる訳にもいかないだろうとエフォーは一八〇センチの身長を支える細い手足を使って立ち上がってみた訳なのだが、その行動に周囲の人達は驚いたように声を上げる。
「おぉ! 立ったぞ」
「……そりゃ立つさ。君達の目には俺が第一世代のアンティークにでも見えるのかい?」
ローブを着た男の発言をエフォーは侮辱と捉えて不快だと言わんばかりに顔を歪めながらクエスチョンをぶつけた。
「しかも言葉も理解しているようだ」
「だからさ」
「未だかつて、ここまでの成功例は無い」
「…………」
エフォーの発言は聞こえているのかそうでないのか定かではない程に答えが返ってこず、『エフォーが立ち上がり、言葉を発した』ということにのみ視点を置き議論を繰り広げる男達を前に元から発言なんてなかったかのように空気に溶けて消える。
「やはりあの魔方陣は間違っていたようだな」
「そのようだ」
「古文書にのみ頼るのではなく、やはり我々が頭を使って考えたモノの方がこのような結果を残せたな」
「おいおいそれでは古文書を頼りにした我々が頭を使っていなかったようではないか」
「失言だった」
「しかしそう結論付けられてもしょうがない程の成果だ」
「まあ今までの召喚儀式で出て来た者達の程度の低さと言ったらなかったからな」
「一番最初の個体はどんなものだったか」
「人の形をしてはいたが、我々の言葉も理解出来ぬ猿だ」
「確か処分したのでしたかな?」
「えぇ、四〇番目の個体を召喚した時点で一から一〇までは」
「四〇番目の個体が一番マシで期待もしましたからな」
「立ち上がったし、言葉も通じた。ここまでは今回の個体と同列だ」
「ただ、勇者の器では無かった」
「まさか脱走するとは」
「所詮は黒い体毛の猿だったということだ」
「一番酷かったのは三〇番目だったか。召喚に体が耐えられずに四肢のもげた状態で出て来た娘」
「よく覚えていますな」
「魔方陣を血で汚されて苛立ちましたからな」
「いやいや、そんなのはしょっちゅうでしょうに」
「手足が無いくせに周囲へ血を撒き散らしながら転げまわっていたのはアレだけです」
「今いる勇者適正個体は何体でしたかな」
「確か四〇五体。収容施設もそろそろ満杯で、体の一部が欠損している者から処分していこうという話だったでしょうに」
「そうでしたそうでした。じゃ、真っ先に処分するのは三〇番目ですな」
「えぇ。まだ生きていれば、ですが」
「生きているでしょうな。あの連中、ロクに食べ物も与えていないのに動物らしく共食いもすることなく助け合って生きているらしいですから」
「ホッホ、一丁前に助け合いとは」
「皆の衆、話が逸れている」
「そうだ、四十番目以来にして四〇番目以上の成功例だからといって燥ぎ過ぎだ」
「そうだぞ、我らが勇者様に逃げられでもしたらどうする」
「逃げてどうするのだ? 知人も故郷も無いこの世界でこんな年端も行かないこんな若者に何が出来よう」「黒猿には逃げられたではないか」
「それはそなたがほかの個体との境遇の差を与えず、牢にブチ込んだからだろう」
「丁重に扱ってやればコレに逃げ出す理由なぞ無い」
「会話から何かを感じ取れる頭を持っているのなら逃げることが得策でないこと位理解出来よう」
「それにもし逃げ出しても、のう?」
「あぁ……我らには新たな魔方陣があるのでしたな」
「これは国王陛下に良いご報告が出来そうだ」
ここまでで一度、エフォーは状況把握に必要となるであろう情報収集をローブの男達から漏れ出す醜悪な会話からするのを打ち切った。
余りに耳に優しく無い会話に心の耳を塞ぎたくなった、というのも理由の一つだが、情報を取り入れても頭の中で纏めなければ始まらないといのもある。
まず自分は拠点である『アルテヤ』への帰還が何らかの理由で不可能な地へ、フィクションに置けるファンタジーとカテゴライズされる分野の物語の中に出て来るような『勇者』という役職の存在としてこの場へ強制転送された、その方法はエフォーの理解が及ばないであろうことは古文書や魔方陣という単語から察する事が出来た。
結論付けるなら、オカルト。
有り得る筈の無い摩訶不思議な現象によって実行されたモノと推察される。
また、エフォーの知識として存在する『勇者』と、この場に居る者達の考える『勇者』には大きな違いがあることも見受けられた。
本来、一人だけが選ばれ魔王やドラゴンといった架空上の生物を退治する為に仲間たちと旅をする男の逸話がそもそもの架空上の英雄たる勇者という存在であるというのに、話を聞く限り自分と同じ境遇に立たされた人間は最低でも四〇〇人強は居るらしいということも情報とは違う上に、その扱いは人を家畜として扱う奴隷に近しいモノがあるようである。
しかしエフォーの知識とは所詮フィクションの世界である為にどちらが正しいのかは判断に苦しむ為、どちらが正解であるかは保留というこで横に置いておく。
問題は自分もその立場に置かれたであろう勇者とは名ばかり、ということだ。
“いくら儲けたいの、いくら儲けねばならんのと、そんな横着な考えでは人間生きてゆけるものではない。”と、豊田佐吉は言った。
だが周囲に居る人達の会話からは悪へ立ち向かう者への敬意がまるで見られず、それどころか同じ人間であろう者達を強制的にこの場へ呼び出した揚句肉体の部位を欠落させたばかりか何をさせる気なのかは知らないが、搾取することしか考えていないのは目に見えていた。
(……これが本当の意味でのナチュラルヒューマンか、自己中心的で他者への思いやりが皆無であるっていう説は本当だったんだ。顔も随分と醜悪だし、猿は自分達だって気づいて無いのかな)
そう思うエフォーは全く穢れの無い雪景色のように白く染み一つ無い肌と揺れる度に夜空へ光る星を思わせる様にキラキラと光るプラチナブロンドの髪、トドメにそれらがあっても無くても良い装飾品であるように思わせる程の、職人が障害を掛けて作り上げたフランス人形をもゆうに超える完成された顔。
幼さを残す故に美しいというよりは可愛らしく、その顔が作り上げる表情は容姿に似合わず男らしく美少年の徳を全て得ているような格好の良いものだった。
「あー君、何をぼさっとしているんだ、名を名乗りなさい」
勝手に自分達の中で会話を始めておいて、何時途切れたかは知らないがまるで自分がトロ臭いかのような発言には怒る気にも成れずむしろ呆れ果てたエフォーだが取り敢えずは名乗りを揚げる。
「対アルミラージ殲滅用勇者型兵器 19世代 製造番号1000000000000番コード『AAAA』。ランク10のハイヒューマンだけど?」
1ページ3000字ちょいで行くつもりなのですが、区切りを考えず執筆したせいで話が展開しませんでした。
蛇足気味になるかもしれませんが、お付き合い下さい。
メリークリスマス!
by白米サンタ