紅い金
短編です。
「貴方にも私はすくえないよ」
そういう彼女の瞳は、冷たくて。温めてあげたくなってしまうほどで。こんなに蒸し暑い夜には、似合わなくて。浮いていた。
「そんなの、やってみなくちゃ分からないよ」
「分かるよ」
俺が苦し紛れに言った言葉を、彼女は両断する。そう。分かるんだよ。分かってしまうの。俺には彼女がすくえない。
俯く俺を、彼女が鼻で笑う。もう返す言葉が見当たらない。
そう。だけど、俺は彼女をすくいたい。すくってみたい。
「俺は君を、すくいたいんだ」
ゆらゆら揺れる君の赤を見ながら、俺は決心した。俺は、彼女をすくう。すくって見せるのだ。絶対に、すくってみせる。約束する。
だって、彼女がすくって欲しそうにしている。きっと誰にでも分かる事じゃない。でも、分かる。俺には分かる。彼女はすくって欲しいんだ。すくえないと分かっていても、誰かにすくってほしいのだ。それが分かる俺は、彼女をすくってあげなければならない。それはもはや使命感だった。
彼女は少し驚いたようにして、顔を伏せてから、また俺をバカにするように微笑んだ。
ほら。さっきよりも、嬉しそうだもの。君は、すくって欲しかったんだ。自覚していないだけで、実は心の底から、すくって欲しかったのだ。
「……勝手にすれば」
+ + + +
「ごめ、」
ん、まで言えなかった。涙が止まらなくて。声が引っ掛かる。
俺は必死に視界を広げようと、手で顔を擦った。目が痛くて仕方がない。
虚ろな瞳の彼女を優しく撫でて、壊れた人形のように、
「ごめん」
と言い続けた。
彼女にはもう聞こえないとわかっていても、言わなければこっちが壊れてしまいそうだったから。
すくうって、約束したのに。守れなかった。約束を、守ることができなかった。
最低、だ。
熱い日差しに照らされて、彼女の紅が濁っていった。
金魚のお話でした。屋台ですくった金魚って、すぐ死んじゃうんですよね。それから生まれた話です。
掬う=救う
みたいな感じですね。というか「掬う」で読んだら結構バカな話に見えます。