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【底意地の悪い監獄と二人の非効率プレイヤー】

主人公とその相棒の登場。

詳しいゲームシステムの説明や、世界観などは作中で捕捉していきます。

「――なんていうかベタだよなぁ」


 今の状況において、腰掛けながらまず口に出たのはそんな一言だった。

 周囲にあるのは騒ぎ、悲鳴、怒号。

 リアルだったら確実に警察沙汰になりそうなパニック状態。それを離れた路地裏で、友人と一緒に座りながら眺めていた。

 ああ、あれだよね、なんていうか自分以外の他人が取り乱しているのを見たらむしろこっちが冷静になるみたいなあれだわ。ていうか、頭抱えて叫ぶ人間とかマジ引くわぁ、ゲームだけど。


「ベタだな。いや、さすがに今はそれ以外の言葉が思いつかん」


 同じく横に座り、鼻にかけた眼鏡の位置を直しながら狩り帰りで残っていた疲労を癒すためのポーションを煽る友人。

 くすんだ灰色の髪、肩下まで伸びた髪形に、そこそこ整った顔つき、長身痩躯といってもいい体躯に、鼻にかけたのはメタルチックな眼鏡のヒューマン。

 つまるところの俺の友人にして、所謂第二陣(一般組)プレイヤーの【ハンター/スカウト=トルキン LV6】こと、長道賢である。

 ちなみに髪の色とか、鳶色の瞳とか、それ以外は大体アバター製作時にスキャンした本人の顔そのもの、つまり元よりイケメンである。たまにブサイクになればいいのに。

 名前はどこぞの火山辺りで醜い奪い合いをする主人公と指輪ヤンデレの某小説作者から取ったとかなんとか。


「で、どうするビリー? 情報収集でもするか?」


 トルキンの目がクイッとこちらに向く、その口調は落ち着いたそのもの。

 長年のゲーマー友人としてその神経のずぶとさには頼れるところがあるものの、こいつの頭のネジは何本かぶっ飛んでると思うんだ、マジで。


「いや……それはやめておいたほうがいいっぽい気がする」


 数秒目をつぶって、よく考えて答えた。


「何故? 早めに動かんと後手になるぞ」


 ああ、うん、まあそう思うんだが。


「誰だってそう思うだろうし、そうやってるっぽい。誰だってあんな報告聞かされたら状況把握に努めたいだろうが、大半がパニックになってるみたいだしな。やるとしても他の連中が落ち着いた頃……言い方は悪いが、俺たちがやらなきゃいけない程度の基本情報はあとでどうやったって回ってくるはずだ」


「つまり?」


「正直今どう足掻いても誰もよくわかってないだろうし、後回しでおk」


 つまり、こういうことだ。

 なんかいきなりログアウト不可能になった→グランドマスターがなんかとち狂った発言してきた→え、うそマジでー? ログアウトできないんだけど、もしかして他のも全部マジか?→確認しようぜ、あとどうやって脱出するのよ、これからどうすれば(以下略) って感じになってる。

 で、さっきから腕に嵌めたカーソルコンパネを叩いて確認したんだが、ログアウトボタンがマジでない。

 あとステータスにあるセーフティー状態が、通常のプライベートエリア以外では解除出来ないはずの完全フリーモード……所謂セクシャル行為が出来る状態になっていた。パンツだけは完全鉄壁のカーテン! と思ったら下手したら破けて、社会のウィンドウズになるとかしゃれにならん。


「……ステータスはさっきの宣言内容以外、変化はないみたいだな」


 カーソルコンパネの投影パネルを叩いて、ステータス画面に切り替える。

 リアルではすっかり廃れた腕時計の形をしたそれが展開して、空間投影形式にステータス画面が表示される。基本俺が覗き込む前面以外からは見えず、後ろから覗かれない限りは安心のシステムだ。

 表示される内容、【ライダー/ガンナー=ビリー LV5】 つまり、俺、狭間 裕史ことビリーのスタイル/センスとレベルだ。

 職業はライダー、つまり騎乗士。乗り物とかに乗る職業に、銃使いの適性があるという意味になっている。フロンティア・ワールド・オンラインにおいてはメインとなる職業のほかに、武器やテクニック・素養などの傾向を決めるセンスを初期段階で選ぶことが出来て、転職か上位スタイルになったり、訓練所でセンスを磨かない限りは基本変更は不可能になっている。

 で、レベルはのんびり素材集めとかスキルの習熟をしていたからまだまだ初心者領域の5である。

 とりあえずステータスパラメータを確認して、ついさっきレベルアップした時に見た数字と変更がないかどうかチェック。続いてスキルを確認……ふむ。


「追加や変更はないみたいだな。トッキー、そっちのスキルは?」


「大丈夫だ、問題ない」


「不安になってくるからやめろ、それ」


 某大作RPGの、確かもう一三番目くらいになっている歴代主人公が必ず言う死亡フラグをどや顔でほざいた友人に、汗がじわりと浮かんだ。


「まあネタはともかく、こっちもスキルは変更ないようだ。さすがに使わんとわからんがな」


「だよなー、とりあえず確認と避難兼ねて<グローの森>にでもいくか? レベル上げないとやばい気がする」


「だな、同意だ。今のうちに必要な素材の備蓄と、金を稼がないと不味そうだ」


 いそいそとパニックというか喧騒になっている始まりの街<忘れられた街 ロスティア>を抜け出して、近くの狩場であるグローの森に向かう。

 状況はまだよく飲み込めてないが、今のうちにアイテムと経験値稼いでおかないと確実にやばい予感がする。


 何故なら……俺たちのクラス構成は"攻略に向いてない残念構築"だからだ。







 フロンティア・ワールド・オンライン。


 それは二十二世紀においてすでに一般化しつつあるVRゲーム――仮想現実における体験型ゲームにおいて、新しく販売されたゲームだ。

 ちなみに内容は剣と魔法のファンタジー世界……ではなく、武具と超能力というSFチックなモチーフにされており、ついでにいえば出てくる敵はファンタジーだったり、魔法もどきみたいな文明が広がっているというちゃんぽん世界である。

 最初期であるVRゲーム、ハーフリアル・オンライン。通称HL・O、剣と魔法の中世異世界ファンタジーをきっかけに、世には沢山のVRゲームが開発と販売がされてきた。

 その初期で人が死ぬデスゲーム事件――などというアニメかライトノベルみたいな事件も起きることなく、現実から逸脱したちょっとした娯楽、あるいはスポーツみたいな扱いとして社会に受け入れられ始めて、一部の大作ゲームにおいてはそれのプロプレイヤーなどと呼ばれる人物が現れている。

 そして、その中のいくつものゲームを俺と友人の長道は遊んでおり、それに引き続いて新しく販売されたフロンティア・ワールド・オンライン。

 開発総合責任者エルド・ラージが他のVRゲーム開発元会社を買収、統合して生み出された超大型ゲームとして発表された。

 ゲームコンセプトは【これ以上ない自由と新たなる世界】、他者のVRゲームシステムの統合とミックス、さらにより大きなサーバーを利用した大規模プレイヤーの参加数。

 プレイヤーたちが攻略していくことによって広がるワールドシステムなどに、より複雑化したアグレッシブスキルシステムなど、大きく宣伝されたそれに、世の中のゲーマーたちは興味を惹かれ、当然のようにプレイを開始した。

βテストプレイヤーと呼ばれる先行組一万人に遅れること二週間、序盤の足慣らしと初期のランドである大陸から第二世界への進撃が開始されたころ、別段テストプレイヤー選考から落ちていたor参加していなかった、一般プレイヤー組が参加した。

 ネットの情報サイトやβテストプレイヤーたちの活躍を見ながら、俺と長道はのんびり世界観を楽しんでいたんだが……



 どうしてこうなったかね? 







 ロスティアの混雑している門をなんとか潜り抜けて、大慌てで街に戻っている他のプレイヤーや、騒動を気にせず街の外でモンスターをほあたぁ! と八つ裂きにしている精神が鋼鉄な剣士プレイヤーなどを横目に、俺たちは街の外に向かって歩くこと――一時間ぐらい。


「ぜぇぜぇ……なんだ、時間かかりすぎじゃね?」


 マップを見ながら東に歩くこと一時間近く、ようやく<グローの森>の入り口に辿り付いた。

 見上げるほどの巨大な巨木が視界一面に広がり、鬱蒼とした森の光景がどこまであるのか見渡せない。

 ロスティアの近くにある植物系素材と、そこに生息する動植物系モンスターが収拾出来る場所として駆け出しプレイヤーたちの狩場になっていたはずなんだが……


「ここまでくるのに、一時間もかかったっけ?」


 確か前来た時は二十分ぐらいでこれた気がする。

 ていうか、なんか風景に見覚えはたくさんあったんだが、その感覚がすげえ長くなっている。


「いや、こんなに遠くにはなかったはずだ……大体徒歩で一時間もかかるような場所じゃあ、初心者たちの狩場としては厳しいだろう」


 ゲームとして不親切過ぎる、トルキンは目を細めながらそういった。

 とんとんと確認するように地面を踏み締める。


「多分、さっきの宣言のあとに改変されたな。街や狩場との距離が多分広げられてる。具体的にどう付け加えたかは分からないが、おそらく拡大されているんだろう。世界自体が」


「……マジか。なんのために?」


「分かりやすい。多分簡単に街と街の行き来をさせないためと、単純に狩場などでの危険度を上げたいからだ」


 ギリッとトルキンのアバターの口元が歯を噛み締める。リアルでの長道がよくやる癖だ、気に入らないことがあればすぐに口に出る。


「この森との往復ならまだましだが、他の狩場だともっと時間がかかる。夜になるまでに街に戻るのは一苦労だ」


「……確か夜行性の高レベルモンスターとか出たよな、この森」


「街道でも出現率は上がるし、私のようなスカウトでもなければ夜目は純粋に危険だ。<サイバーエルフ>や<ロボテック>なら暗視も出来るだろうが……」


「<アニマルカラー>でも一部暗視は出来たっけ?」


「狼とか、そこらへんなら聞くんじゃないか? 詳しくは憶えてない」


 トルキンが首を横に振る、攻略情報はある程度見ていたが、俺もさすがに全てを覚えているわけじゃない。

 こんなことならしっかりとメモったりしておけばよかったと後悔しているが。


「現状どうなってるかわからねえしな」

 

 街との距離とかそれ以外にも仕様変更がされている可能性がある。

 モンスターの強さや、プレイヤーのスキルもどうなっているか分からない。

 下手に知識頼りにしても足元をすくわれかねない、そう考える。前向きに考えたほうがマシだ。


「――ッ、ビリー!」


「どうし……「くるぞ!」


「! 了解!!」


 トルキンの声に、俺はあいつが眼を向けた方角に体を向けた。

 腰に巻きつけたガンホルダーから[ウッディ・ガン:量産]に手をかける。

 ――パッシブスキル発動:《銃使い》

 システム的に補正された指先が、正確に銃を引き抜かせ、そのトレースになぞるように俺の指先が銃身を前に向ける。

 慌てて銃を引き抜くのを失敗したり、安全装置のついていないフリントロック式ガンでの暴発を防いでくれるありがたいスキルだ。


「パッシブスキルは発動するか、そっちの《危険感知》は?」


「上手く発動している。くるぞ、二匹だ」


 スカウト/レンジャーによる《危険感知》 敵対生命モブなどの出現を感知、スキルレベルごとに範囲内における敵対キャラなどの方角を知らせてくれるスキルだ。

 敵陣の調査や警戒においてスカウトほど頼れるものはいないことを知っている俺は右手に銃を、左手に引き抜いたナイフを握る。

 それに遅れて、視界の奥の茂みがざわめき、一呼吸するよりも早く躍り出た影――牙をむき出しに、灰色の毛皮をした狼型のモンスター、グレイハウンド。それも二匹。流れるような速度で突っ込んでくる。トルキンが左にステップ、俺は右。二匹来たらいやだなと思いながらも上手くばらけた、ラッキー。


「こいよ、ワンコロ!」


 その狼に対して俺は脚を踏み出しながら、右手の銃を向けた。

 構え、照準、補正、発射――射撃。

 ウッディ・ガンの引き金を引くと同時に内部構造のバネが跳ね上がり、火薬代わりに装填されたバチバチの実が衝撃で破裂、パンッと弾ける音と共に石製の弾丸が発射。

 甘い芳香と共に打ち出された弾丸がグレイハウンドのどタマを打ち抜いて、表示されたライフゲージが大きく削れる。ヘッドショット補正、通常のダメージよりも大幅に上昇したダメージを確認しながら俺は駆け出す。

 本来ならこのまま続いて乱射して蜂の巣にするのだが、このウッディ・ガンは単発である。マジ使えねえ。

 銃適性がそれほど伸びているわけでもないのでダメージ上昇もなく、単発で初級ソードでの撫で斬りぐらいでしかない駄目な銃である。

 だから一発撃ったら。


「解体してやらぁああああ!!」


 ウッディガンを放り捨て、ナイフ片手に肉弾戦です。銃使いセンス、なにそれ美味しいの?

 どつく、蹴る、殴る、腕噛まれた! 痛い! だがしかし、そのまま突っ込む。構えながら刺す、刺す、刺す。血がどばーと出る、きもい補正がかかってる! 知るか! こちとらFPSゲーマーだぜ、出血など慣れたものよぉお!!

 所詮モブモンスター一匹、こちとらレベル5まで上げたプレイヤーである。

 ごり押しでも楽勝だった。放り捨てていたウッディガンを拾い上げて、[自然弾丸:石]を装填し、額に掻いていた汗を拭う。


「……ふぅ、楽勝だったな」


「いや、ビリー。お前しっかり噛まれてるから、しかも二回も」


 ですよねー。いや、HPゲージが三割ぐらい吹っ飛んでる、ウルフってば意外と攻撃力高めなんだよね。俺後衛系スタイルだし。

 ちなみに横のトルキンは無傷である。ウルフが来た瞬間、その顎を蹴り飛ばして、倒れたところを踏みつけながら首から刃を差し込んで、腹にかけて切り裂いていた。もう血抜きしているようにしか見えない、ていうか猟師の動きだ。マジこええ、実家がマタギの人、怖いよ、こいつ。


「ああくそ、銃ないと駄目だ。俺は駄目だー、あとバイク。馬でもいいから欲しい」


 三割削れたダメージを、近くに生えていた[自然薬草]の葉を採って、もしゃもしゃと食べる。調合スキルがあれば回復ポーションの材料になる奴だが、そのまま食べてもある程度回復する。

 ちなみに味は生のほうれん草だった、なにこれ不味い。

「そんなお金が序盤で稼げるわけがないだろう」


「ですよねー」


 そうなのである。ライダーである唯一にして最大の魅力である騎乗生物、あるいは騎乗マシン。

 その二種類とも馬鹿みたいに高く、序盤ではどう足掻いても手が出せない、あるいはレンタルするのが限界である。

 だから始めたばかりのライダースタイルは上級プレイヤーがいるギルドにでも所属して先物投資で買ってもらうか、野生の生物でも捕まえて飼育するか、マギテックスキルとパーツ集めてマシンを作りしかないという不憫システム。

 身体能力も他の戦闘系と比べて上がりやすいわけでもないし、付随するスキルはどれも乗機前提だから徒歩での戦闘やプレイには不向きなのだ。

 なので序盤ライダーは「馬にもバイクにも乗れないなら、人に乗ればいいじゃない♪(笑)」とか言われちゃうのだ。くそ、可愛い美少女に騎乗したい。


「ああちくしょう、金が欲しい。こいつらの毛皮剥ぐべ」


 ハウンドの死体に触れて、表示されるコマンド→『解体』を実行。

 同時にウルフの死体が光に還元されていく、ドロップアイテムとしてイベントリに格納されていく。

 本当ならレンジャーであるトルキンが解体すると効率がいいんだけど、俺も狩猟系スキルは欲しいのでスキル熟練度上げだ。確か五十回以上、野生動物解体すればドロップ率がよくなるスキルが入るはずだし。


「ううむ、手を動かなさない解体には違和感があるなぁ……と、それはともかくビリー。気付いたか?」


 同じくハウンドを解体していたトルキンが、声をかけてくる。


「なにが?」


「一応戦闘でスキルは使ったし、効果も変わらないみたいだが……出血などの残酷描写のセーフティーがオフになっていたぞ」


 ああ、うん、それは気付いてる。

 デフォルトのままならどんな撲殺、斬殺行動したところで飛び散るのはダメージエフェクトの光の粒子や、効果音だけだ。

 こんなに大量の出血や、実は結構我慢していたが生臭い血液の臭いなどは、このフロンティア・ワールドの組み込みシステム元になったゲーム、スリリング・ハント・モンスターなどの狩猟ゲームやガンズ・パトリオットなどFPSゲームの年齢制限解除仕様以上だ。

 大量の出血などは製作スタッフのこだわりであるとしても、生理的な嫌悪感やストレス負担になる血液の臭いなどはさすがになかったし、ぬるぬるとした生温かい血液はVRゲームとしても制限をかけるべき仕様になっているはず、だった。

 ……これ、繊細な神経してたらマジ吐くぞ。

 ていうか基本ずぶとい神経をしている俺とかトルキンでもなければ、正直マジ泣いてるぐらい気持ち悪い。


「痛覚関係は変更してない、みたいだな」


 ハウンドに噛まれた時覚悟は決めたつもりだったが、伝わってきたのはVRゲームにおけるぴりりとしたくすぐったいような痛みだった。実際の痛みと比べれば痒い程度の、フィルターのかかった痛み。

 そこだけは温情で見逃してくれたのか? いや、そんな奴じゃない気がする。


「ああ。それは宣言通りだ、しかし……それ以外では悪辣な仕様になっている」


「あの糞GM。とことん嫌がらせしたいみたいだな」


「だろうな。これでは他の一般プレイヤーも、戦闘を嫌がるだろう」


 誰が好き好んで大量の血を浴びて、手を血に染めたいというのか。

 あくまでもゲームだからこそ戦闘は出来ても、リアルでは暴力など振るえない奴なんて幾らでもいる。

 少なくともこのフロンティア・オンラインはかなりマニアックな仕様ではあるものの、他のFPS系や狩猟系などと比べて誰にでも楽しめる王道的なゲームとして売り出されていたのだ。

 何人がこの事実を知って、適応出来るか。

 俺はその危険性に気付いて、トルキンに言ったが。


「確かに、普通は嫌がるだろうな。しかし……」


 しかし?


「……街の傍でモンスター狩りまくっていた奴とかもいたが」


「ああ……あれは例外だろ」


 あんまりじっと見てなかったけど、なんかゴブリン複数匹を斬り飛ばして、蹴り飛ばして、戦っていた奴もいた気がする。がはは! とか笑っていた気がする。

 ……意外と適応出来る奴もいるんだな、うん。


「パニックが収まればそのうち狩りにくる奴もくる。今のうちにレベル上げと、素材収集に専念するか」


「だな。考えるのは後回しでいい」


 今は動く時間だ。

 そう考えて、俺たち二人は森の奥に足を進めた。

 時折出るモンスターを狩りながら、薬草系素材を集めていく。俺は時折おちていているバチバチの実を拾い上げて、あとで弾丸の材料にするべくインベントリに収納していく。トルキンはレンジャーとして自然生態系の薬草やキノコなどの素材を発見し、レンジャースタイルで習得出来る自然薬学スキルで回復効果のある軟膏や、効果の高くなる配合薬草などを製作。

 市販品を買っても十二分に間に合う程度の代物だが、それ以上に元手がただの回復アイテム類は俺たちには必須だ。

 数時間は経っただろうか、 <グローの森>の中盤辺り、ポップしてくるリーフバードやグレイハウンド、ミニベアなどを倒して俺はレベルが8に、トルキンは10にまで上がっていた。


「そろそろ一旦戻るか?」


 トルキンが帰還を提案してきた。


「だなー、今から戻れば夕方くらいに街につけるだろうし。夜は野外で過ごすのはやばい気がする」


「ああ、今の俺たちだと夜の<グローの森>はリスクが高い」


 夜と昼ではポップしてくるモンスターの種類も違うし、そうじて凶暴になる。しかも暗い中だから夜闇が効かないと、一方的に袋叩きにされる危険性があるのだ。

 スカウト/レンジャーであるトルキンがいるとはいえ、俺では確実に死んでしまう。

 とりあえず傍で目に付いた[自然薬草]を引きちぎり、インベントリに突っ込んでから、俺とトルキンは帰路を目指す。

 そうして森の中を歩き、あとしばらくしたら出れると思った頃だった。


「誰か、助けてぇえええええええ!」


 悲鳴が聞こえた。絹を裂くような女性の悲鳴。

 森の中で鈍く、かすれる様な叫び声に、俺たちは気付いた。


「ッ、ビリー!」


 トルキンの目がこちらに向いて、どうする? と尋ねていた。


「ああ、俺にも聞こえた! 様子を見るぞ」


 それに俺は今にも駆け出してしまいそうな脚を抑えて、一瞬逡巡してから頷く。

 こんな森の中で、しかも女性の悲鳴とあらば男して駆けつけたい。のやまやまだが、今は異常事態。

 まさか一日も経たずに悪辣な行為をする女性プレイヤーがいるとは思いたくないが、駆けつけた途端にどこからかプレイヤーが襲ってくる。などという事態は考えたくない。

 しかもこちらはレベルがまだ低いのだ。PKなどに不意打ちされた確実に死ねる。


「焦らず、だが急いでいくぜ。いざとなったら逃げられるぐらいにな」


 警戒はスキル的にスカウトのトルキンが最適だ。そのリアルプレイヤーとしての経験も含めて、注意を任せる。

 俺は小走りで悲鳴の聞こえた方角に走り出す。


「分かった。――その用心深さ、吉になればいいが」


 それに追随して、トルキンが厳しい目つきで追ってくる。

 友人の目はアバター越しだが、少しだけ呆れているような気がした。


「用心深いんじゃないさ」


 俺は苦笑して応える。



「人一倍臆病なだけさ」









 しかし、結論として俺の警戒は不要だった。

 何故なら。



 ようやく辿り付いた悲鳴の場所、そこに見えた光景は。


 ドゴォと吹き飛ぶPKらしき剣客プレイヤーと、その横で槍を構えているもう一人のPK。

 そして剣客を蹴り飛ばした大柄なプレイヤーに、後ろには倒れた女性剣士を抱き締めた術士の女の子の姿。

 そして。


「て、てめえ!? なにもんだ?!」


 PKの言葉に両手に武器を構えた彼はこう答えたのだ。



「通りすがりの――トンファー使いDA!」



 と。





荒ぶる変態その1登場。

次回よりトンファーが唸ります。


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