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少年や少女、それに、神様の描く物語  作者: コリー
当日のこと 【《修正中》Ⅰ~Ⅷ】
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当日のこと 【Ⅳ】 《修正後》

 俺が……、俺がこの土地の、この地域の、この家へと預けられたのは九歳のとき。理由は、悪いものに取り付かれた可哀想な子。

 そう呼ばれていた息子だったから、俺の母さんが、母さんの叔父の家へと俺を預けた。


 この家――叔父おじの家――、蘆屋あしや家は、かなり昔から御祓おはらいや占いなどと陰陽道おんみょうどうに関わる事を行ってきた家系らしくて、悪霊に取り付かれているのではないか? という疑いがあった俺を預けるには何よりもうってつけの場所だった。

 と、母さんは考えたんだと思う。直接母さんからそこらの事情を聞いたわけではない、でも俺がこの家に居候し続けた約四年という時間があれば十分な程に理解する事が出来た。


 この家は神社で、陰陽師でもあって、だから母さんが言う『悪いものに取り付かれてしまった』俺から、その霊的なモノをはらうために、俺はここへ預られた。……でもさ、


「そもそも、人に取り付く幽霊なんて、……どこにも居なかったのにね」


 そう、人に取り付く――ましてや、悪い――幽霊なんてあの場所には居なかった。だって、あの場所に居たのは、俺の、


  ――僕の大切な友達だったんだから。




 その日は、僕のお母さんの誕生日だった。


 でも、お母さんは、泣いていた。いつも、いつも、毎日泣いてばかりだった。


 どうして泣いているの? と聞いたら。


『お父さんがね、……』

 そう言いかけて、また泣き出してしまう。


 本当の事を言うと、お母さんが泣いている訳を僕はしっていた。だって、お母さんは毎日泣きながら同じ言葉を呟いているんだもん。


『……こうさん、ごめんな……さい、ごめんなさい。……巧さん……』


 今日もお母さんは僕のお父さんの名前を呼ぶ。泣きながら、謝りながら。でも、お父さんはここに居ない。僕がお父さんの不在に気づいた時にはもう、この家にお父さんという存在はなかった。


 お母さんはどうして、毎日のようにお父さんに謝っているのか? ……、そもそもどうして、この家にお父さんが帰ってこなくなってしまったのか、僕にはよく分からなかった。

 

 だけど、僕はその事を誰かに聞こうとは思わなかった。聞く意味がない気がした。聞いたって、どうにもならない気がしたんだ。

 だから、僕は僕の分かる事を、出来る事をしよう、そう思った。


『……お母さん、誕生日やらないの? せっかくケーキ買ったのに、それに……』


 僕の目の前でお母さんは泣いている。すごく寂しくて、すごく悲しくて、だから泣いても、泣いても涙か止まらないんだ。だったら、せめて誕生日ぐらいは楽しませてあげたい。たくさん笑わせてあげたい。

 だから、


『グスッ……、ごっ……ごめんね。うん、分かっているわよ。今日は私の誕生日に風季ちゃんの一番のお友達も来てくれるんでしょ? うん、そんな大切なお友達に母さんのこんな恥ずかしいところ見せたくないものね』


『うん……、お母さん、それじゃちょっと呼んでくるね!』


『はいはい、……気をつけて行ってらっしゃいね! 慌てなくてもケーキもご飯も逃げないんだから!』


『うん!』


 だから僕は、僕の一番の友達をお母さんに紹介する事にした。アイツは、優しくて、面白くて、それでいてどこか頼りがいがあって、……とにかくそいつは僕にとっての一番の親友。だから、アイツならきっと、僕のお母さんも笑顔にしてくれる。

 そう思ったから、僕はアイツを――俺にしか見えないアイツを家へと招待した。


『呼んで来たよー!』


 玄関から叫ぶと、『はいはい、まだ準備出来ていないから、少しの間リビングで待っていてね』と台所からお母さんの声が返ってきた。だから僕はアイツの手を引きながら大体十畳のリビングへと足を運んだ。


『うん、へぇ、それで、それでどうなったの?』


 いつもの待ち合わせ場所、上半分程が砕けている石版の辺りでアイツと合流して、うちへと引き返しながら喋り続けたその話題の続きを、僕は、薄い肌色をしたカーペットの上に腰を下ろしてから口にした。アイツも僕の正面に少し空間を開けて身軽に座ると、どこか活気で満ちたその金色の目を輝かせながら言葉を並べた。


『――』


『へぇ、しらなかったよぉー。うん、というよりあれってもとは墓石だったんだね……、ちょっと怖いよ』


『――』


『ほんと! ほんと? お墓の下にいる人は、いい人なの? ……なら怖くない……かも』


『――』


『なっ、なんでそこで笑うの!?』


『――』


『もー、だから何がおかしいのさぁー!』


 僕は本心から怖いと思ったから怖いと言ったんだ。でもアイツはそんな僕を横に腹を抱えながら大きく笑う。もしかしたら、ここで僕はアイツに怒った方がいいのかもしれない。……でも、なんだかどうにもアイツに対して嫌な感情を抱けなかった。

 どちらかといえば、そんなアイツを見ているこっちにまでその気持ちよさげな笑いが移ってしまいそうな気がした程だった。


『ごはん並べるから、そろそろ食卓についてくださいねー』


『うん、分かった今行く』


『――』


 お母さんの声が台所から聞こえてきたから、それに僕は笑いを堪えながら大きく返事をして、アイツは少しばかり遠慮気味に小さく返事を返した。


 『おなかすいなぁー』なんて軽く言いながら、アイツよりも先に立ち上がって、まだ座り込んでいるアイツの顔を何気なく見下ろした時のその表情は、



―登場人物―

 犬坂 風季 (いぬさか ふき)

 

 それに、

 犬坂 功 (いぬさか こう)

 アイツ (あいつ)

 

 ―以上―

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