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少年や少女、それに、神様の描く物語  作者: コリー
当日のこと 【《修正中》Ⅰ~Ⅷ】
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当日のこと 【Ⅲ】 《修正後》

 

 ……でもさ、あぁなんか情けない……って、早朝とか昼間にやっているアニメを見ると毎回思わされる。

 アニメに出てくる主人公ってさ、大体不思議能力みたいなものを兼ね備えていたりするわけですよ。で、その能力を思う存分使って何か大事な、大切な目的を成し遂げる。


 なんかそういうのって、カッコイイって思うんだよね。楽しそうっていうかな、なんかさ、毎日が希望に満ち溢れている感じがする。

 その主人公が暮らしている世界は現実だけど、その中で主人公だけは非現実のような不思議を持っていて、その不思議を自由に、自分のしたい様に思うままに振るっている。


 そこに、不思議を恐れる気持ちなんてない。


 そこに、不思議に対する戸惑とまどいなんてない。


 どのアニメの主人公も、皆自分の不思議を受け入れて、信じている。


 それなのに、俺はさ……、いつかこの不思議で俺は死んでしまうかもしれない、なんて考えたりして、だからと言って他人にこの不思議を相談するのは絶対に嫌だ、と思っている。死んでしまうなんて嫌に決まっている。でも……、だけど、この不思議を他人に知られてしまうのもなんだか怖い。

 ……本当に、俺はさ、……あぁ、やっぱりアニメの主人公カッコイイ! …………はぁ、うつだぁ~。


「…………。……あぁ、まぁこういうのは自分の考え方次第、なのかもしれないけどさ……」


 流れ出る水を見詰みつめながら、そう小さくつぶやく。目の前には長方形のかがみが、腹部にあたる冷たい感触は洗面台の一部。俺が今居る場所はまさしく洗面所だ。

 そして、今俺は洗面所で手も顔も洗わず、水だけ流して一人立ち尽くしている。


 理由はとても単純、冷たいお水を体に浴びせるのが、なんだかとてもおっくうだったから。


「……。……はぁ、もっと、もっと前向きに考えれば、いいのかなぁ」


 死ぬだの、嫌だの、なんかすごくネガティブな発想って感じがする。


 ……それなら! 今までの死ぬ、嫌、の言葉をすべて、生きて、好き、に変えてみようではないか! かっ!


 ……。そんな事を、中学校初登校日にグダグダと考えながら、一本の歯ブラシが入っているブルーのコップへと手を伸ばす。

 左手でコップを掴んで、右手で歯ブラシを鉛筆えんぴつと同じ持ち方で持つ。


 先程から流れ続けている水にコップの飲み口をそっと当てて、大体三分の二溜まったところで右手の歯ブラシとバトンタッチ、流れる水の水圧にまかせて歯ブラシの先端をササッと洗う。

 最後に水の溜まったコップの飲み口を上下に動く水道のレバー――蛇口じゃぐちともいい、これをうえげると水が止まって、したげると水が流れ出す――にぶつけて、上へと大きくかたむかせた。

 その際にコップの中の水が三分の二から三分の一に変わってしまった事などは見なかったことにした。


 やや渇き気味の口へコップの水を注ぎ込んで、口の中を十分にうるおしてから、右手の歯ブラシで歯という歯を淡々とこすり始めた。


 口の奥深く、奥歯の辺りを、透き通った透明のプラスチックと極細の白いナイロンを材料の一部として使用しているその百円歯ブラシで擦りながら、目の前の鏡を見詰めた。


 鏡の向こう側には謎の影が!? ……と、そんな冗談はさておき、もちろんそこに映っているのは、見慣れた自分の顔。


 髪の色は色素の薄い黒。目の色は、一体誰の遺伝子を受け継いでいるのか? 深い栗色。それに男友達の中では薄い方なのかもしれない肌。背も高い方ではない上に小学五年生までは自称【僕】だった事から、近所のお婆さんお爺さんからつい最近までお古の着物――黄色や桃色の色をした、健全な男子が着てはいけない気がするもの――をよくもらっていた覚えがある。

 小学六年の後半辺り、自称【僕】から自称【俺】に変わっていたのは、明らかにこれが原因だったのだと、今更ながら思った。


 耳にかかるギリギリまで伸びている髪の毛。その髪の至る所から飛び出している寝癖ねぐせを直そうか、直さずそっとしておくか、まだえ切っていない脳にそのどちらを取るのかと、決断をあおぎながら、さらにまた新しい疑問を問いかけてみた。


 さっきからずっと消えないこの違和感。今俺の左頬辺りの歯をキュキュッとみがくのではなく、カサカサとこすり続けているこのナイロンブラシには、……何かが足りない。そう思った。

 

 その何かは、クリームのような色艶いろつやを持っていて、感触はザラザラ、感覚はズキズキ、味は、……あまり覚えていないけれども、それはきっと苦くて、とてもまずかった気がする。

 と、この感想のままでいくと、どう考えてもほとんど好い所の無さそうなクリーム状の薬品、ならば別に使う必要性は無いだろうと、歯ブラシからコップへとバトンタッチ、口の中で微々たる水分をころがしながら、歯ブラシをつかんでいる右手を水道のレバーに押し当てて、下へと傾かせた。


 勢いよく流れ出した水に空になったブルーのコップを押し当てて、その水圧がコップの全面を良い具合にゆすぎきるまで左腕の手首をウネウネと動かし続けた。

 洗い終わったコップを、洗面台から右側の壁に取り付けられている木製の棚に戻してから、続けて歯ブラシを濯いだ。

 

 濡れた歯ブラシを軽く振って、水を掃う。ほんのりと湿っている歯ブラシを先程棚に戻したばかりのブルーのコップの中に立てかけて、「はぁ」と弱々しい溜め息をもららした。


「眠い」




―登場人物―

 犬坂 風季 (いぬさか ふき)

 

―以上―

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