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少年や少女、それに、神様の描く物語  作者: コリー
仮見学の一日目 【Ⅰ~Ⅷ】
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仮見学の一日目 【Ⅱ】

 本当に申し訳在りません。 【4月5日の分です。】

「明日からはしばらく雨だけどな」


 千東はパンフレットに眼を落としながらもそう呟く。


「降水確率は?」


 俺は千東を横目で見ながら、雨が降る確率を聞く。


「たしか、八千パーセント、を百で割った数字」


「そう、うん」


 即答で、短直にそう呟くと、透き通った青空へと静かに眼を戻す。


 そうして一分間程黙り込んでいたら、千東が話しかけてきた。


「暇潰しぐらいにはなっただろ」


 千東は手に持っていたパンフレットをそう言いながらもこちらに返してきた。


「あぁ、……うん」


 小さく頷き、千東からパンフレットを受け取る。

 パーフレットを開き、部活表を載せているページの最終ページ、六ページを開いて、呟く。


「そういえば後でだけど、部活を巡りながらで、ついでに覗くだけでいいから覗いて見たい部活があるのだけど」


「例えば?」


 千東がこちらに眼をやり、そう聞いてくる。


「ええとね、まずこれは基本だよね、セレ部とか」

「――却下」


「即答ですか」


「ふっ、どうせまだ他にも下らない事を聞いてくるだろ、お前は。次は何だ、ほら言ってみたまえよ」

 その黒縁眼鏡くろぶちめがねに右手の人差し指を、眼鏡の鼻パッドに当てて、クィッ、と持ち上げると、薄笑いを混ぜながらも言う。


「うわっ、うざっ――イッテ――イタタタッ、痛いって、ごっ、ごめんなさい」


 反射的に批判ひはん的な事を口走った、と、その瞬間に足を踏まれ、そのままねじ込まれた。


「さて、話を進めようか」


「………うん、ここも、面白そうだよ、マイ部」


「ん? その部活、何を活動基準にしている?」


「マイブーム」

「――却下!」


 即答。ならばこれはどうだ! と、めげずに次の候補を挙げる。


「千東! 勝部だ! 俺と勝負を」

「――いいだろう、そして君は先手必勝と言う言葉を知っているか、ねっ!」


 千東は、しゃべりながらも早速先手を打ってくる。しかしその長い足は、バシッ、と地面をらしただけで、俺の足を捉えてはいない。


「ハッハッハッ、同じ手には引っかからない、ねっ!」


 そう声を張り、千東の地面に張り付いた足目掛けて、足を落とす。バンッ、と音はしたが、それは足を踏んだ音ではない。


「遅いな、亀のように遅いな!」


 千東がそう言い、地面を踏み鳴らす。


「亀だって、ウサギに勝てるんだ!」

 と、俺が反論しながらも地面を踏み鳴らす。


「くっ、すまん、亀。こいつには亀程の知能も無かったな。お前はミジンコで十分だ!」


 地面を何度も踏み鳴らしながらも、息を荒げ始めた千東が言い。


「ミジンコッ!? それなら千東はエダナナフシだい!」

 と、あがくように地面を踏み鳴らし、叫ぶようにそう言う。


 そうして、何度地面を踏み鳴らしたのだろうか、いつしか声は途絶とだえ、無言での地団駄じだんだが廊下に響き渡る。


―ダッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダッダッダッ、ダンダンダン―


 そこに在るのは、意地とプライドとほんの少しのストレスだけ。


「覚悟!」


 俺が叫び。


「甘いな!」


 千東も声を荒げる。


 お互いの足が、お互いの踏み鳴らす位置を定め、落ちてゆく。踏まれるのは嫌だ! 痛いのも嫌だ! そして今まで散々叩かれた分を今ここで! ここで負ける訳にはいかない!


 そんな思いを足に込めて、足を地面へと落とすその一撃も段々と勢いを増してゆく。


 少しずつ、少しずつ。勢い増した一撃は地面を踏み鳴らし、その音が廊下に響き渡る。


「昆虫めぇ!」


「微生物が!」


 思いをぶつけ合い、そして交し合い、周囲にとっては何とも邪魔じゃまで、迷惑めいわくで、五月蝿うるさ目障めざわりな勝負の決着は――ダッン! とその時、俺や千東の踏み鳴りとは全く違う甲高かんだかい足音が廊下に響き渡った。


「――ばか者共、……貴方達は私の教室の前で何をしている? 耳障りよ」

 と、冷え切った冷たい言葉とそこに甲高く響く、地面を叩き割るような踏み鳴り。


「「アッ」」


 その音を響かせたのは黒いヒール、そしてその冷たい声の元主は賀茂かも先生だった。


「一言、言わせてもらいますね。周りを見ろ、空気を読め、邪魔、五月蝿い。私の評判が下がったらどうするの?」


 …………。


 俺が無言で、色々と考えようとしていると、隣で息を整えた千東が一言。


「あの、賀茂先生、一言どころでは無かったですよ」

「――やっ、止めようね、止めよう、うん、本当に申し訳ありませんうちの千東が失礼な事を、アハハハ、アハハハハ」


 あわてて背の高い千東に寄りかかり――本当はその口を塞ぎたかったのだけど無理なので――苦しそうに苦笑いを作りながら、千東を必死に引っ張って賀茂先生から引き離し、小声で「確かに一言ではないけど、そこを言ってはだめだと思うよ」と呟く。

 それに千東は、小声で「残念だが、俺は昔からあの人が嫌いだ」と言い、黙り込んでしまった。


「別にそこまで警戒しなくても私は犬坂君に危害を加えるつもりは無いわよ、フフフ」


 この先生も先生で笑っている、黒く笑っている。『危ない、逃げなさい!』と俺の生存本能らしきものもが叫んでいる。


「犬坂だけさ、俺の名前は入っていない。いつもそうだ、この女は俺をいつも……。死ね、死ね、死んでしまえ、今すぐ死ね」


 隣の千東も千東で、うつむいて、そのいつも無表情だった顔に闇を貼り付け、小さく、ぶつぶつと呪のように呟いていた。


「あぁ……はぁ……」


 息苦しい、いや、息が出来ないかもしれない、窒息ちっそくするかも、とにかくこの場から立ち去りたい。立ち去りたい。「ここから立ち去らせてくださいますか……」と千東に呟いてみるが、右足を踏まれ、ブレザーのすそを力図よく握られたまま、放してはくれなさそうだった。


 その緊迫した空間。俺はあれを呼び出すことにした。


 あれとは、あれです。


「あっ! 倖平、お前の妹が! お前の妹が大変なことに!」


 叫んだ。廊下から、教室に聞えるように叫んだ。


 そこに生まれる緊迫の数秒間、そして。


「うぉぉぉぉ、俺の妹に手を出す輩は一体何処のどいつだ!」


 教室の引き戸を勢いよく開け放つと、丁度俺達と賀茂先生の間に飛び込んできた。


「ごめん、嘘だぜ!」


 苦笑いしながら、陽気にそう言うと。


「てめぇ、だっまっしったっなっ! ……いい度胸しているじゃねぇか。いいぜ、これから俺は、お前を狼少年、いや、現代版野良犬少年と言わせてもらう。何処でも、いつでも、毎日、一生、永遠に」


「なんか、ストーカーみたい」

「――うるせぇ! 野良犬少年!」



―登場人物―


犬坂 風季 (いぬさか ふき)

千東 登 (せんとう のぼる)

也宮 幸平 (なりみや こうへい)

それに、

賀茂 吉野 (かも よしの)


―以上―

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