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少年や少女、それに、神様の描く物語  作者: コリー
恩を返す人に、さらにまた恩を作る人 【《修正中》Ⅰ~Ⅳ】
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恩を返す人に、さらにまた恩を作る人 【Ⅲ】

「……まぶしっ」


 カーテンでおおわれた場所に居たので気にしてはいなかったが、いざその空間から出て来ると、そこは光のあふれる真っ白な世界だと思った。


 全体的に白く、薄透明はんとうめいなものが多く置かれている保健室では、その窓ガラスから入ってくる大量の日差しがその半透明な鏡に、コップに、ディスクを覆うプラスチックの板に、射し込み、反射している様に見える。


「本当に、いい天気だよね」


 保健室の丸時計は九時三十分を指している、確か今日は午前十時で授業は終わりのはず、そうなると今の時刻は結構問題だと思う。


 紺色こんいろのブレザーを適当に整えると、いまだにその右手に握り締めているたばチョコを見つめる。

 さて、このたばチョコはどうしてしまおうか? 食べてしまうか、いや、それは問題だよね。


 でも、返すのも勿体無い。


 ただ、このたばチョコ、持ち歩いているだけで結構邪魔になってしまう。


「これ、どうしようかな」

「――なら、私にくれる? それとも、一緒に食べる?」


「えっ」

 その声に反射的に右手を右ポケットに突っ込むと、苦笑いを浮かべて声の主へと目をやる。


「あはは、なっ、何を……あっ」


 俺の前には、一人の少女が立っていた。


 少女の肘の辺りまである長い黒髪は時々温かい風に吹かれ靡く。


 その少女の顔はどこかで見たことがある。


 何処で? 入学式でも見掛けたと思うけど、いや、それとはまた別の場所で、すごく近くで見た気がする。


「……チョコ食べよ、って言っているのだけど、いい? ええと、貴方の名前は?」


「あぁうん、俺は犬坂、犬坂風季いぬさか ふき、で……」

「――私は青葉五月あおば さつき、青葉か五月でいいよ、それとここは保健室でいいのよね? そしてチョコ」


「うん、保健室であっている。で、青葉は、……あっ」


 その少女、青葉は先程からその腫れたおでこを摩っている。その仕草に俺の中の少し前の記憶が舞い戻ってきた。


 そう、そうだ、俺は千東に追い掛け回されえて、散々逃げたあげくに保健室の前を通りかかった所で道の先に突然人が現れ、まぁ止まれるわけもなく、そのまま衝突。


 だから、坂木先生は衝突事件と言っていたと。それに俺が加害者かがいしゃなら、その被害者ひがいしゃは……青葉五月。


「本当にごめん!」

 叫ぶように声を大きく出し、大袈裟おおげさかと言われても仕方のないくらいに深く、深く頭を下げる。


「えっ、あぁいいよ、あれは私も悪かったし、でも犬坂君って以外に体力あるよね、私も少し焦っちゃった。それとね、チョコ」


「いやさ、でも、本当にごめん。絶対に痛かっただろ、あれ。ごめん」


 相変わらず、頭を下げたまま発言する。


「大丈夫だって、ほら私こう見えて結構スポーツマン、だったり、それにあれは私が犬坂君の前に突然出てきたりしたからね、私こそごめんね」


「いや、俺がさ、そのごめん」


「私だって、ごめんね」


「いや、俺だって」


「私も悪いわよ」 


 …………。


「…………」 


 少しばかりの沈黙。


―スタ、スタ、スタ、スタ―


 頭を下げ、しばらく白い床を見つめていると、その視界に映る床に白い上履きが一足、二足、と現れた。


「もういいよ、ね、ほら、頭上げて、一緒にチョコ食べよ」


 頭の上の辺りからそう言って話しかけてくる。


 俺は最悪だ。そう思う。まだ、もう少し誤ったほうがいい。別に許して欲しい、悪く見ないで欲しい、そんな事は考えてもいない。


 ただ、青葉に謝りたい。


 ごめん。ごめん。


「…………」


「……はぁ」


 そう、小さくため息が聞えた?


「ほら、しっかしり! 男でしょ! このぐらい笑ってさ、少し図々しい方がもてるよ! だからさ」


 青葉はそこで言葉を一度区切る。


「しっかりしろ! 男の子! でしょ!」


―パシー―


「――アッ、あっ」


 一瞬何が起こったのか分からなかった。ただ視界が歪み、気がつくと床に突っ伏していた。


 頭には嫌な耳鳴りのような感覚が響いている。


 どうやら頭を勢いよく叩かれたらしい。何て破壊力だ。


「あっ、ごめんやりすぎた。その、くっ、ふっふふ、……あはは、アハァハハハッ」


 えっ、怖い、なぜ笑われているのか全く分からない。怖いよ、殴って、笑うってシーン、実際に体験すると滅茶苦茶めちゃくちゃ怖いんだけど。


「あぁ、痛い……」

 呟きながらも、両手を使って体を起こし、立ち上がると、今度は意外と簡単に青葉を直視する事が出来た。


「――はっ!」 


 その言葉と同時に鼻から鼻血が垂れて来たのだろう。

 

「ハハハ、面白いって鼻血、右から鼻血が出ている、ウゥ、フフ、ハハハッ、おっかしぃ、本当に変なの! 鼻血なんて久々に見たわ、アハァハハハッ」

 どうやら俺は本当に鼻血を出しているらしい。いや、それよりも、それよりも、だ。


「……」


 やば、こんな事で鼻血を出しているのか? 俺は……。


 俺と歩幅三歩程の距離しかない、その場所に立っている青葉の格好は、普段は殆ど無いでだろう露出があった。


 分厚い紺色のブレザーは羽織はおっておらず、その水色のワイシャツは第三ボタンまで開いていて。それに汗をかいていたのか、そのワイシャツは所々肌と重なりあい、肌が浮き出ていた。


「フッハハ、えっ、あっ、そうだったね、テッシュテッシュ、いるでしょ? テッシュ」


 俺はそのティシュを一枚受け取り、右の鼻穴を埋めてから、「ありがとう」と言ってから続けて言う。



―登場人物―

 犬坂 風季 (いぬさか ふき)

 青葉 五月 (あおば さつき)


―以上―

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