初日 【Ⅲ】
そして、少しの時間が過ぎて、いや、実際数秒だと思うけど、そこで千東が口を開く。
「明日からもう寝るなよ」
「無理だろ」
こいつは何を言い出すのかと思えば、…ひどくない?
「がんばれば出来る! だろ?」
「無理だよ! だろ?」
あれだな、考えてみれば、あの千東が本気でアドバイスをくれると思った俺が…馬鹿だった。
「あきらめるのか?」
「無理だ!」
千東は、人が転んでいるところを見てにやけるようなやつだからな。
「結局、お前はその程度の奴なのだよ」
「無理だ!」
「そうか、無理か」
「無理だ!」
「無理だ、無理だといったって何も解決しないぞ?」
「無理だ」
…………えぇと。
「何も解決しないぞ……」
「無理だ……」
……まだ、続けるのか。
「無理なのか……」
「無理だ……」
「無理か……」
「無理だ……」
「もう、やめたら?」
と、倖平が、その右手を俺の左肩に、ポン、と置いて声をかけてくる。
「…あぁ、そうするよ」
と、倖平に言ってから、何かが抜けたような笑顔で千東を見る。
「そうだな」
千東も諦めたようだ、そのまた口を硬く紡いだ。
二人が落ち着いたのを見て倖平が俺の方を見て言う。
「だが、遅刻はするなよ」
「はっ、はい……精進します」
倖平のその一言には、無駄に重圧感があったという。
それから二分ぐらいの沈黙が続く。
と、言うより、もう時計の針が残り三分の所を指しているのに、このクラスの担当の先生がやって来る様子がまったくないという。
中学校は、小学校とはまた色々と違うのかな?
時間とつりあう話題が無いのもあってか、前々から聞きたかったことを二人に聞くことにする。
「なぁ~」
「ん?」
と、倖平がこちらを向く。
「何だ?」
と、千東が横目で注目してくる。
「俺たちの関係ってどんな感じだろうな?」
「関係って、何が言いたいのかわからん」
倖平が、その目を光らせて、真剣に聞いてくる。
「いや、だからな、大体これまでの三年の仲でさ、同じ中学に来てまた同じように三年間過ごすだろ」
俺が、そう聞くと、二人は静かにこちらを見てくるので、このまま続ける事にする。
「だからな、中学生になってさ、いや、小学校で初めて三人がそろった時から大体三年間たってさぁ、俺たちの仲は、あれからどのくらい進歩したのかなって」
俺は、そう言いきってから、「ね。」と付け加えて、二人の返答を待つ。
「そうだな……進歩したって言っても、こんな感じ、じゃないのか」
倖平は、そう言って続ける。
「今の俺らのこの形が、前の俺達とは違う、今の俺達の関係じゃないかと思うのだけれどな」
倖平は「どう?」と最後に付け足してから、こちらと千東を見る。
「そんな感じ、じゃないかな」
と、もう一度倖平は言って、「そんな感じだよな、千東?」と付け加えて千東に話を振る。
俺も千東の方を見ると、千東が言い放つ。
「弱肉強食、それが世界の仕組みだ」
『うっ』
その後、二人少年と一人の少年は、もう何ともいえない空気のせいで、それはもう、周りまで盛り下がってしまったという。
―登場人物―
犬坂 風季 (いぬさか ふき)
也宮 倖平 (なりみや こうへい)
千東 登 (せんとう のぼる)
―以上―