入学式に寝てしまう人は必ずいると思います! 【Ⅱ】
「最後になりますが、校長先生ならびに先生方、そして先輩方にはあたたかいご指導とお導きのほどよろしくお願い申し上げます。
私たち新入生一同は歴史と伝統ある私立霞原学校の誇りを持ち、その名に恥じぬよう実りある学生生活を送ることをここに誓います」
少女が、少し間を空けて、最後の一言を言う。
「以上をもちまして私の宣誓の言葉とさせていただきます。本日はまことにありがとうございました」
少女は、全校生徒の前で綺麗な会釈をしてから、その場スタスタと去ってゆく。
「うん。倖平、妹とがんばれよ」
「……。今日の午後から遊ぶか?」
「二時ぐらいからなら別にいいよ」
「了解」
しかし、あれだな、倖平の妹の人格があの少女の様に【なんでも出来ちゃいますよ!】って言う感じの奴だったとしたら……。
俺の妹がもしそうだったら、俺としては、一生日陰で生きてゆかなきゃいけないのかもなぁ。
俺に妹はいないけどね。
「青葉五月さん、ありがとうございました。続きまして、今年度に、新しく私立霞原学校に来ました。 教員の、白井菫さんと、賀茂吉野さんです」
司会者がそう言うと、ステージへと、左から、スラリとした凛々しい女性教師とその後ろに、まるでトップモデルの様な容姿をした、見るからに黒が似合いそうな女性教師が歩いてくる。
二人の教師はステージの中央に少し間を空けて立つと、まず、凛々しい女性教師、白井菫先生が一歩前へと出て、軽く会釈をする。
白井先生は、その場ですらすらと、語り始めた。
「新入生の皆さん、御入学おめでとうございます。ならびに保護者の皆さま、誠におめでとうございます、つつしんでお祝い申し上げます。
教師として精一杯がんばりますので、どうぞよろしくお願いします!」
そういうと、また、軽く会釈をして、一方後ろへと下がる。
続いて、モデルの様な容姿をもった女性教師、賀茂吉野先生が一歩前へと出る。
「あっ、倖平、あれ、あの先生だよね、確か俺達の並び順を決めたのって」
そう、この危ない雰囲気を纏った怪しい女性こそ、この入学式での一組の並び順を決めた人だ。
「あぁそうだったな、しかし、賀茂先生は一体どのクラスを受け持つのか、ちょっと気になるな」
「なんで?」
「ほら、賀茂先生って、見たからにダークだろ。そんなダークな先生が受け持つクラスは一体どんなクラスになってしまうのかねぇ。という事さ」
「そうだなぁ。あれだ、ダークなクラスになると思うよ」
「うわっ。嫌だな、そのクラス」
「うん。確かに嫌だな。ダークなクラス」
倖平とそんな事を小声で話していると、その賀茂先生がその冷えた声で話し始める。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。ならびに保護者の皆様おめでとうございます。これからこの私立霞原学校中等部の一教師となります、賀茂吉野といいます」
賀茂先生は、ニヤリとその顔に微笑を浮かべると、続けて話し出す。
「私は新人教師として、まだ力の及ばない所も多いと思うので、今後ともどうぞよろしくお願いします」
そういい、ゆっくり会釈をすると、一歩後ろへ下がる。
二人の教師は左側を向くと、そのままステージの裏へと歩いて行った。
その後姿を見つめながら、左隣の千東と右隣の倖平に聞えるように話しかける。
「なぁ、千東?」
千東にそう話しかけると。
「あ、何だ」
と、千東が、なぜか白い眼で見てくる。
「いやさ、今日の午後、倖平も居るのだけど、二時ぐらいから遊ぼうよ」
と、俺が、【何を考えている?】という疑問の眼で。
「別にかまわないぞ」
と、以外にも素直に千東が承諾してくれる。
「じゃ、二時までに俺の家に集合で」
倖平の提案に。
「わかった、じゃ倖平の家に二時くらいに集合ということで」
と、答える。
「続きまして、校歌斉唱」
と、司会者が告げると。
♪ 校歌斉唱 ♪
学校の校歌のメロディが流れたのでうろ覚えながらも校歌を歌う。
校歌合唱が終わると、司会者が言う。
「全校生徒起立。礼」
―ガタッ、ガタガタ、ガタッ―
全校生徒が椅子から立ち上がって会釈をすると司会者が言う。
「以上をもちまして、平成二十年度、洸凪市立霞原中学校の入学式を終了いたします」
と、司会者が締めくくった。
―登場人物―
犬坂 風季 (いぬさか ふき)
也宮 倖平 (なりみや こうへい)
千東 登 (せんとう のぼる)
それに、
賀茂 吉野 (かも よしの)
白井 菫 (しらい すみれ)
―以上―