入学式って必ず寝る人がいるよね 【Ⅱ】
「あぁそれは」
「――俺も、そう思う」
そう倖平が口にしようとした時に、俺の右隣から第三者が介入して来た。
「あっうん、そ、そう思うよね……やっぱり」
こ、こいつも居たのか……。
「なんというか、千東……おぉれが言おうとしていたのになぁ~……。」
倖平は、歯切れが悪そうに、ぎこちなく呟いていている。
そんな二人を当の本人は、まるで見下すような目で上から、ジー、と見つめていて、ふと何かを思ったように話しかけてくる。
「今、お前ら『いたの!』って思ったよな。」
この、人の台詞を容赦なく奪い去っていく男の名は千東登。
千東は小学三年生のころ、始めて俺から話しかけたや奴だった。
千東は、同い年の中では特に身長が高いほうで、俺と倖平より頭ひとつ分以上の差がある。さて、こいつに見下ろされない日は、いつか来るのだろうか?
色々な意味で。
チャームポイントは黒縁めがね。
そして、これがすごいことに、今まで三年間の付き合いで、あの黒縁めがねを外した時の素顔を俺は見たことが無いのだよな……。
それと……。
「……くっ、不覚……」
それと……もしかして俺は、感情が自分でも知らないうちに顔に出てしまう体質なのかも知れない。
「……あっ! ……くっ、こいつと一緒にされるとは、不覚……」
と、テンションを下げて倖平が言う。
えぇ、こいつと一緒って……差別だ!
「くっ、この人達の人格がこうも悪魔のようだとは思っていなかったよ、不覚……」
と、テンションを上げて言い返す。
……この方々は少々人格が曲がっていらっしゃる。と思う。
「くっ、入学式で早速爆睡しているやつに言われたくないな、不覚……」
と、無駄に笑いを込めたような、嫌味な声で倖平が言う。
もしかしたら、人格の平均基準にしている俺自身の人格がだいぶ曲がっているのかもしれない! と、うっすらと思う。……。
「くっ、何も言い返せないじゃないか」
と、正直に言い返す。
爆睡していて申し訳が無い……。
「ふっ、小さな……小さい戦いだな、隙やり!」
と、千東がサラッと言う。
どういう事?
「はっ、ナナフシには言われたくないな、クリティカルッ」
と、倖平がついにあの言葉を口にする。
もしや、千東が言っていた言葉の意味って、俺たちの背が千東から見たらとても小さく、さらに、争っている理由も小さいという事なのかな、あれ、ズバリあっていると思う。
「ぬっ、そうだな~エダナナフシ、だからな、覚悟!」
と、後で仕返しされるかも、と、後々後悔しながら言い詰める。
一応、言っておくと、ナナフシ、エダナナフシ、と、命名したのは確か、俺が小学五年生の時だったと思う。
いやぁ~、あの時は、何度も、何度も……、腹が痛くなったよ。
……色々な意味で……
……本当に色々な意味で……
「ぐっ、そもそも人でないというか、出血」
と、千東がサラッと言う。その表情はピクリとも動いていない。
「そう、お前は……」
と、倖平が何かを言いかけにして、こちらに視線を向けてくる。
あれはたぶん周りを見ろ、だと思う。だって、周囲の視線が痛いもの。
そんな事をやっていると、周りの視線が痛い事になんて気づかない事もあるものだ。
「あぁ……すみません、静かにします」
軽く、頭を下げる。
「ごめん、ごめん」
倖平は、苦笑いをしている。
「…………」
口を閉ざす千東……。
シャイなやつめ!
…………。周りの雰囲気が何処と無く変わり、会話もなく、静かに校長先生の話を聞き流していると、気づいてしまう。
「日光が、暖かい、気持ちいい」
自分が今いる場所は、体育館の手前から最前列の左側の一の十九番と書いてある席。そしてこの場所には、今丁度、体育館の右上の窓の一つから朝の暖かい日光が満遍なく降り注いでいるわけで……。
「やっぱり寝ようかな」
なんて誰にも聞こえないように小さく呟いてみる。
「いやでも……」
でもなぁ~寝ているところをこの左右の二人に気づかれたら、絶対に怒られるよな。
「はぁ」
と、言うよりも、きっと殴られたり抓られたりと……。
そんな事を考えながらも、だんだんと、いや、もう何かの糸が切れたように夢の中に落ちてゆくのであった……。
―登場人物―
犬坂 風季 (いぬさか ふき)
也宮 倖平 (なりみや こうへい)
それに、
千東 登 (せんとう のぼる)
―以上―