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キモデブと、琥珀色の守護天使  作者: あるふぁ


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44話 膝の上の特等席と、小さなおねだり

日常の中の、眩しすぎる異分子


 翌朝、カズヤはカーテンの隙間から差し込む陽光で目を覚ました。

 新築の最近見馴れてきた天井を見上げ、いつも通りの朝だと思いかけたとき、キッチンから聞こえてくるトントンという軽快な包丁の音が耳に届く。


 (……あぁ、そうか。夢じゃなかったんだな)


 リビングへ向かうと、そこにはエプロンを締め、鼻歌を歌いながら朝食の準備をするレナの姿があった。

 朝日を透かして黄金色に輝く琥珀色の髪、白くしなやかなうなじ。昨日新調したばかりの服を着たカズヤの分まで、丁寧に皿が並べられていく。


「あ、カズヤくん! おはようございます。ちょうど今、お味噌汁ができたところですよ」


 彼女が向けてくる、一点の曇りもない笑顔。

 レナの家の豪華なリビングの、生活感の溢れるカズヤの生活する空間に、不釣り合いなほどの美少女が当然のように存在している。その強烈な「違和感」に、カズヤは今さらながら目眩を覚えた。


 最近までは、コンビニの袋をガサゴソと鳴らすのが朝の音だった。

 今では、彼女が淹れたお茶の香りと、「おはよう」という優しい声が部屋を満たしている。


「レナ、おはよう。……なんだか、まだ信じられないよ。朝起きて、レナがここにいるなんてさ」


「もう、寝ぼけているのですか? わたしはもう、どこにも行きませんよ」


 レナは困ったように、けれど嬉しそうに微笑むと、カズヤの座る椅子の背後に回り込み、彼の肩に顎をちょこんと乗せた。

 鏡越しに自分たちの姿が映る。大柄な自分と、その背中に寄り添う可憐な少女。


(やっぱり、どう見ても不釣り合いだけど……)


 けれど、カズヤの肌に触れる彼女の体温は本物で。

 この幸福が、決して消えてしまう幻ではないことを、彼女の柔らかな重みが教えてくれていた。



膝の上の特等席と、小さなおねだり


 いつものように、リビングの豪華でふかふかなソファーに二人で並んで腰を下ろした。

 吸い込まれるような座り心地のなか、二人の肩は自然と触れ合っている。


「お互い、自然に並んで座ってしまいますね」


「なんだか、最近は定位置が決まってるよな」


「ですね……えへへ♪」


 レナは満足そうに微笑むと、今度は甘えるようにカズヤの膝の上へとうつ伏せに覆いかぶさってきた。

 カズヤの太腿を枕にするような形で、彼女は上目遣いに彼を見つめる。


「ここは、わたしの定位置ですよ。誰にも渡しませんから……」


「そんな物好きは、レナくらいだからな」


「そうあってほしいです……。それと……昨日、頑張ってカズヤくんの服を選んだご褒美を、まだ頂いていません……」


 レナが少しだけ潤んだ瞳で、チラリとカズヤの顔を覗き込んできた。


「ご褒美?」


「頭を……な、なでなで……です」


 そう言って彼女は、まるで撫でられやすいように少し頭を差し出し、琥珀色の瞳を期待に輝かせた。

 カズヤは、そのあまりの愛らしさに息が詰まりそうになる。


(可愛すぎる……。これがおねだりってやつか……。逆に、俺の方が『撫でさせてください』ってお願いしたいくらいだっていうのに)


 カズヤは意を決して、大きな掌を彼女の柔らかな頭頂部にそっと置いた。

 絹のように滑らかな髪の感触が指先を滑る。ゆっくりと円を描くように動かすと、レナは嬉しそうに目を細め、喉を鳴らす子猫のようにカズヤの膝に顔を埋めた。



日溜まりの微熱


 窓から差し込む午後の柔らかな日差しが、リビングの空気を黄金色に染めていた。

 カズヤの膝にうつ伏せで体を預けるレナの重みは心地よく、けれど彼女が密着するたびに、その柔らかな胸の感触がダイレクトに伝わってくる。


(……意識しないなんて、無理だろ……)


 カズヤは高鳴る鼓動を悟られないよう、努めてゆっくりと呼吸を繰り返した。

 膝の上のレナは、そんな彼の動揺を知ってか知らずか、安心しきった様子で体を委ねている。


 カズヤが大きな掌で彼女の頭をなでると、琥珀色の絹のような髪が指の間を滑るように流れていった。陽の光を吸い込んだ髪は温かく、撫でるたびに花の蜜のような甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。


「んぅ……カズヤくんの手、大きくてあったかいです……」


 レナは蕩けるような声を漏らし、幸せそうに目を細めた。

 静かな部屋の中、響くのは時計の秒針の音と、二人の穏やかな呼吸の音だけ。外の世界の喧騒が遠く感じられ、まるでこの空間だけが切り取られた秘密の庭のようだった。


「……レナ、気持ちいいか?」


「はい……。世界中で、わたしがいま一番幸せな自信があります。ずっと、こうして撫でられていたいです……」


 レナは甘えるようにカズヤの膝に頬を擦り寄せた。

 撫でる手を通じて伝わる、彼女の純粋な愛おしさ。

 カズヤは、指先に伝わるサラサラとした髪の感触を慈しむように、何度も、何度も、優しく彼女の頭を撫で続けた。

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