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WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる  作者: Schuld


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4-7

 ぶらんぶらんと空調の風に吹かれて揺れているエドワード・ウッド所長は、鬱血した顔を真っ青に染め、舌を大きくはみ出させた凄惨な姿で首を吊っていた。


 骨が折れて筋が断たれた首は二倍ほど伸び、足下には腐血と糞尿の小さな水溜まりが出来ている。


 絞首によって死んだ人間特有の現象だ。この腐敗具合からして、死後四日から五日といったところだろうか。


「動かない死体は可愛いもんだな」


 しかし、どれだけ凄絶な死に様を晒していようと、この五人にとっては最早〝今更〟どころの話ではない。


 死体なんぞ文字通り数え切れないほど見てきたし、自分でも量産している。その上で、さっきまで全力疾走する上、撃っただけじゃしなない死体の相手をさせられていたのだ。


 ただ首を吊っただけの死体を唐突に出されたところで、カーニバルの掘っ立て小屋でやっているホラーハウスよりもチープな恐怖演出でしかない。


「なんでコイツ、ゾンビになってないんだ?」


「噛まれなかったからだろ。あとほれ」


 ハジメが指を刺したところ、彼の足は地面から離れて揺れている。


 高い梁に上等そうなベルトを巻いて死んだことによって地面に触れず、菌糸のネットワークに汚染されなかったのだ。


「ハジメ、この人、なんでズボンはいてない?」


「ベルトで首くくったから脱げたんだろ。いやしかし、死してパンツ一丁とは可哀想だな……下ろしてやるか?」


「阿呆かお前、下ろしたらゾンビになるだろ」


「じゃあ代わりに何か適当なもんでズボンを括ってやるか。いや待てよ」


 ハジメは上から下までじっと見た後、足下を見下ろして指を弾いた。


「やった! 靴だ!」


「いやタッパがちげぇだろ。入らねぇって」


「まぁ見てろ」


 ハジメはさっきまで尊厳云々を言っていた死者の足から、如何にも高級品でございといった風情の革靴を引っ剥がすと、デルタに渡して靴底だけをナイフでそぎ取ってくれと頼んだ。


 そして、無惨に解体されたそれの底を足に合わせると、靴代わりの切れ端を巻き付けていく。


 するとどうだ、不格好ながらサンダルのようになったではないか。


「これでガラス踏んで痛い思いとはサヨナラだぜ」


「まぁ、貴方がそれでいいならわたくしは結構ですけど」


 靴とも言えないが、足の裏を守れる物を手に入れたことを喜ぶハジメを、何か可哀想な目で見たトワイラであったが、彼女はふと死体にウジが涌いていないことに気付いた。


 恐らく、この施設が完全に密閉され、蠅の一匹も侵入できないように気を付けられていたからだろう。にも拘わらず、フィルターを貫通して微細な菌糸が地上に流出するなど。やはり、どれだけ気を遣ったつもりでも、完璧という物はこの世にはないのだと思い知らされる。


「お、この部屋結構色々あるじゃねぇか。水のボトルに飯に武器。なんでコイツ、首なんて括ったんだ?」


「さぁ。表が静かになったのに大丈夫だって助けが来なかったから、絶望でもしたんじゃね?」


 ハジメが首から物理キーを回収している間に、デルタは部屋を物色して価値のある物を探そうとしていた。コトがコトだけに事態を片付ければハイランダーから報酬は貰えるだろうが、それはそれ、これはこれで背嚢一個分の持ち帰り自由はキッチリ守るつもりなのである。


「せめて期待して待ちゃいいのに。あと五日ばかし長生きしてりゃ、俺らが来たってのによ」


「さて、生き延びてその先がパラダイスと言えるかね」


 バキリを鍵の封を割り、トリニティに渡しておいたハジメはズボンを回収し、汚れているが穿かせてやってから、切れっ端で括っておいた。


 流石にこれから先も人がやってくるであろう中、パンツ一丁でずっとお出迎えして、パンイチのエドワードが目印だ、なんて言われたら哀れだと思って。


「机の上に置いてあるのはお酒ですわね。贅沢なこと。あらハジメ、貴方が好きな茶色い蒸留酒でしてよ」


「流石に薬で体が変になった状態でアルコールブチ込みたくねぇよ。変な副作用が起こって爆発四散したらどうしてくれる」


「そうなったら流石に動き出さないでしょうし、始末が楽ですわね」


「このクソ耳長……」


 軽口を叩くアドラーは机上に遺書っぽい封筒と、手記らしきものを見つけたが、別に価値のある物ではないかと思って開かなかった。


 世の中には〝この世界が何故棄てられたか〟を推察して楽しむ変人がいるそうなのだが、彼女はそこまで趣味が悪くない。


 何より、たったこれだけのことに絶望して自裁を選んだ負け犬が残した言葉に、どれほどの価値があろうか。


 彼女は、トワイラは大凡全てを喪った。


 父母、親族、何世代にも渡って護り抜き、富ませた領地。


 何よりも愛しき領民達。


 水害による飢饉とあらば蔵を開いて同じく粥を啜り、二度と同じことが起きぬよう堤を作った。


 戦とあれば古の甲冑を纏いて軍馬を狩り、騎兵突撃の先頭にも立った。


 疫病が渡ってくれば魔法で感染を防ぎ、侵された者を癒やし、適わずとも看取ってきた。


 その全てを〝気紛れ〟の一つで粉砕され、遺ったのは残骸と化した土地、死屍累々の荒れ果てて見る影もなくなった領邦。


 残った物は、魔法の力が掠れきった伝家の宝刀と、己の肉体一つ。


 それを受け容れて、トワイラは今も生き続けている。絶望などしていないし、しょぼくれたまま自害などまっぴらだ。


 だというのになんだ。高々世界の一つが傾いたくらいで。


 最後まで醜かろうと、矜恃を守って死ねば良い物を。


 さすれば、先に逝った者達にも誇れたろうに。


 自分はお前達の規範として、世界が滅んだ後も気高く生き、そしてそのままに死んでいったぞと。


 まったく、世の愚か者はノブリス・オブリージュというものを理解していない。


 貴族は貴族だから貴いのではないのだ。


 義務を果たすのは税を受け取る物として当然。その上で更に為すべきことがある。


 その生き方によって民を導き、自分もあのようにあろうと思われるからこそ尊ばれるというのに。


「ああ、つまらない」


 手記を無視して、机上に残ったグラスに蒸留酒を少し削いで一呷り。


 キツすぎる酒精、泥のような香り。ハジメやデルタはコレに様々な果実のフレーバーを後味に感じると言うが、気取って嘘を吐いているのではないかと思うような味だ。


 到底、記憶の中で、彼女が最初の一本を植樹してから数百年、好みの葡萄酒を提供し続けてくれた畑の酒とは比べものにならない。


 それでもだ。あの世とやらがあるのであれば、領民達に「やはり貴方は伯爵に相応しかった」と迎え入れられるため、トワイラは貴族としての仕草を崩さず、グラスを静かに置いた。


「煙草はねぇな……このガンラックから弾だけ貰ってくか」


「あまいものは! ねぇ!」


「落ち着けクイン。ほれ、これでもポケットにしまっとけ。多分チョコバーかシリアルバーだ。甘いと思うぞ」


「何をやっていらして。漁るのならあとでいくらでもできるでしょう。さっさと救世主を騙るキノコモドキにトドメを刺しに行きますわよ山賊共」


 あーいとおざなりな返事をして手を止める三人に、トリニティは次の行き先を示した。


 中央警備統括室だ。この施設全てのセキュリティを握っており、本来はここからでなくては制御AIも触れない。


 しかし、施設自体をスタンドアロンにしても、AIを完全閉鎖型にしておかなかったのはお粗末だ。不便だったからかもしれないが、せめて別の電算機を経由して施設をコントロールし、逆にAIにはアクセスが不可能な構造にしておけばよかったものを。


 そうすれば、こんな風にあっさりと最深部が見つかることも、キノコによるアポカリプスの解放も見つからず、傭兵達は苦労しただろうに。


『最後の鍵はロジャー・コーマン最高警備統括主任が持っています……が、悪いニュースが一つ』


「なんだ、古い映画みたいだな」


 ハジメのボケを無視して、トリニティは監視カメラの映像をハックしたのだろう。主任室に通じる映像を展開してみせると、全員が嫌そうな声を出した。


「な、なんじゃこりゃ」


「え? デカ……」


「縮尺が間違っておりませんこと?」


「ハジメより、ぱつぱつ」


 その廊下に一体のゾンビが陣取っていた。


 ただのゾンビではない。


 体が内側から膨れ上がり、身長2m半、体重は恐らく200kgを下ることはない肉の塊のようになったゾンビだった。両の拳は皮膚が癒着した上で一塊となり、真っ黒に変色して巨大な槌を思わせる形状になっていた。


 トロウルよりは小柄ではあるものの、相当に暴れ廻ったのだろう。中央警備統括室前の廊下は嵐でも吹き荒れたような有様で、多数の床からせり上がるバリケードの殆どがへし折られており、その合間に挽肉になってゾンビとして起き上がることすらできぬほど、手酷く損壊された遺骸が散らばっている。


 動きこそ遅いが、統括警備室の扉をぶち破って、侵入を阻むために下ろされた隔壁さえもブチ抜いていることを鑑みるに、どう考えても中に潜り込んでミンチになったコーマン主任の死体から鍵を探すことは不可能だろう。


 最悪、胴体に良いのを貰って鍵が粉砕されている可能性すらあった。


「これを何とかせんと部屋にすら入れんな……」


「また、おとり、やる?」


「いや、とろくさいが戻ってきた時どうしようもない。コイツが道に蓋をしたら、逃げ場がなくて御陀仏だぞ」


「わたくしも、これだけ大きいと斬り倒せるか自信がありませんわね」


『ましてや、我々の現有攻撃オプションでの撃破は不可能といっていいかと』


 どうしたもんだかと考え込む三人であったが、ハジメはふと隣に展開されている地図を見て気付いた。


 そして、無意識に指をやってピンチインしようとして「あ、そういう機能ないんだった」と思いだし、トリニティに拡大を頼む。


「重兵装保管庫……ここなら何かありそうじゃないか?」


「おお、たしかに。ロケットの一発でもブチこめば、流石に御陀仏なんじゃないか?」


『この狭隘な地形での爆発物使用は推奨できません。何より、音でゾンビが集まってきますよ』


「でもコイツ倒せねぇと詰みだろ。とりあえず行ってみようぜ」


 ハジメの提案にとりあえず全員が乗り、隔壁と遠回りで安全な道を確保しつつ、武器保管庫に辿り着いた一行。


「……誰か開けようとしたんだな、これ」


「二人じゃないと開けられないのも考えモンだなぁ」


 耐爆扉の両脇に備わった、解錠用コンソールは両脇の柱に備わっていた。


 そして、右側には〝鍵を握った右手だけ〟がぶら下がっており、左側は血で真っ赤に染まっている。


 恐らく、あのゾンビを軽火器だけで撃破するのは不可能だと悟った保安部門の人間が慌てて向かったが、鍵を開けようとした隙に捕食されたといったところだろう。ガバガバなセキュリティーよりはマシだが、こういった即応性が必要な時には困った物である。


「じゃ、開けてくれトリニティ」


『はい』


 しかし、そんな強固な扉も横に滑って開いていく。無情なものだ。命を賭しても開けられなかった扉が、指示一つで開いてしまうのだから。


「おー、色々あるじゃねぇの。これは対戦車ロケットか? お、こっちは軽機関銃だな」


「何と戦うつもりだったんだよコイツら」


「殿方は大きければ大きいほどいいと勘違いしている節がありますものねぇ」


 デルタとしては〝ド派手な武器〟は歓迎であったが、流石に廊下で対戦車ミサイルをぶっ放す気にはなれないし、軽機関銃とて〝アレ〟相手では役に立つまいと色々物色してみるが良い物が見つからぬ。大型の擲弾発射機もあったが、表面を抉るだけで効果があるかは微妙だった。


「何かゴツいのがないか? 対物ライフルとかそういう……」


「ハジメ、ハジメ」


「なんだクイン。さっきのチョコバーはハズレだったか?」


「デカイの、あるよ」


 ん? とハジメが目をやると、何かがカバーにかけて隅っこに置いてあった。


「げっ……」


 何だろうと剥ぎ取ってみれば、そこに鎮座ましますは、最新鋭兵装が集められた倉庫には似合わない、薄く錆が浮いた巨大な銃。


 それこそ〝人間の企画を逸脱しつつある〈異形〉でもなければ〟発砲はおろか、運搬さえ不可能であろう代物。


「えぇ……なにこれ……」


「重機関銃だろ」


『弾もありますね。口径は12.24mm。総重量は32kgです』


 本来ならば、地面に固定して使うような〝重機関銃〟が忘れられたように取り残されていた…………。

はい、というわけでボス戦準備です。L4Dのタンクてきなのです。

ドロップ運が悪くてガソリンタンクもガスタンクもなかったら死ぬほど面倒くさくて絶望するヤツ。


あと重要人物達の名前は、私が勝手に世界三大B級映画監督と呼んでいる人物からとりました。

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― 新着の感想 ―
デカい銃どころじゃないご立派ァ!なモノが来ましたね、ポストアポカリプスは地獄だぜ!現地豚157匹挽肉に出来そうな悪い兵器は大好物ですよsir
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