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WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる  作者: Schuld


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4-3

 現地人の好みの問題か、それとも室温を低く保っておく必要があったのか、入り込んだ廃棄世界の遺構内は酷く冷え込んでいた。


 廊下には人の温もりを一切廃した、ただ合理性によって作られた合板に依ってなる回廊が続くばかり。


 そして、言うまでもなく親切なことに案内図は用意されていなかった。


 とはいえ、それは無理もないことだ。


 いつ襲われるか、国によってガサ入れを喰らうか分からない秘密施設に案内板や地図版などがあっては、どうぞ攻めてくださいというようなものではないか。


 されど、その地味さを彩るかのように諸所を血糊が塗りつぶしている。


 転々と転がる人体の欠片。それが、この施設が地獄の中心であることが分かった。


「えらく狭くて入り組んでいますわね」


 トワイラが少し窮屈そうに剣帯の位置を正しつつ言った。


「テロとか企業スパイ対策だな。敢えて分かりづらく作った上、廊下をうねうねさせて、迎撃しやすくしているんだ。職員にはナビ付きの端末でも配って対応してたんだろ」


 漫画やゲームによって多少の知識があるハジメは、この手の施設が何も意地悪で難解な構造をしている訳ではないと語る。


 侵入者を迷わせ、敵対者を迎撃するに易い構造を作るのは、秘密施設を作るための基本だ。


 とはいえ、それも全て、電子の妖精が暗躍したため無に帰した訳だが。


「とりあえず武器だな。何かヤバいのが彷徨いてそうだ」


『武器庫へのルートを提示します』


 トワイラがメイン制御AIを屈服させ、施設の全容を明らかにしてしまったのだから。


 彼女が漁ったデータバンクによれば、この施設の名は〝Site-Ω(サイト-オメガ)〟。サバイバーズの世界においてはアイオーン・バイオメティクスと呼ばれた、巨大複合製薬企業の本拠だ。


 表向きには一般的な医薬品の開発を行っていたが、裏側では先進的な幹細胞培養によって〝バイオドール〟と呼ばれる、脳のない人間を作り出してオーガニックな臓器を富裕層に展開していた暗黒企業。


 しかし、その研究はどんどんと先鋭化、及び過激化していき、〝代替神経細胞〟の製造を端緒として、その内に〝世界を黄昏に導く技術〟への開発に手を伸ばしてしまったようだ。


「で、それが失敗してゾンビに? 何があったんだ?」


『研究データの更新がものすごく錯綜していてよく分かりませんが、何らかの〝菌類〟に由来する自己修復性に着目し、そこから様子がおかしくなった気配がありますね』


「菌類? 人間に?」


 うぇーと舌を出すデルタに、ハジメも抵抗感を覚えて表情を曇らせた。


 しかし、ファンタジーの世界出身であるトワイラは違ったようだ。


「菌糸を介して千切れた肉体を継ぐくらいは普通では? わたくしの世界では治療魔術として有り触れていましたわよ」


「……マジ?」


『ウッド・ワイド・ウェブの理論ですね。菌糸の分岐構造は人間のニューロンと構造が似たフラクタルを描くので、コントロールすれば神経の代替にするのは不可能ではないかと。トワイラさんの世界は、かなり高度な技術を持っていたようですね』


 正気かよという顔をする〈シヴィラツィオ〉と〈サバイバーズ〉、理論的にあり得ると言った手前、二人がそういう顔をすると〈フラグメンテ・マキナ〉は思っていなかったのだろう。


「えぇ……それって自分が椎茸のほだ木みたいになるってことだろ……?」


「マッシュルームの培地と同じ扱いは簡便だぜオレぁ。オレ、好き嫌いはない方だけど、キノコだけは嫌いなんだよ」


「魔法の高度さが分からない蛮族達は困りますわねぇ」


 ぼっとん便所使ってるヤツに野蛮だなんて言われたくねぇわと言い返そうとしたハジメであるが、クインがついた、と声を出したために足を止めた。


「ここ、あってる?」


『はい、第一種警備装具倉庫です。主に対人用軽火器の倉庫ですね』


 本来ならば警備部からの要請があるか、十分なセキュリティ・クリアランスを盛っていなければいけない扉。一枚板のように見えていたそれが、右斜めに斜線がはしり、ズレるように開いた。どうやら高度な耐爆扉構造になっていたようで、簡単な爆弾で吹き飛ばすことはできなかっただろう。


「ひょー、宝の山だぜ!」


 デルタが一番乗りで勢いよく入り込んだそこは、両方の棚にお行儀良く銃が並ぶ空間であった。斜めを向いて設置されたガンラックに取り出しやすいようカービン(短縮)化された突撃銃(アサルトライフル)が並べられており、走り抜けながら取り出せるようになっている。


 そして、その奥には装具が吊り下げられている。社章である太さの異なる三本の線が描くメビウスの輪が刻まれたタクティカルベストがあり、隣の棚には同じく引き抜きやすいように弾倉が並べられていた。


 他の棚には減装薬された破片手榴弾や、対人用フラッシュバンが並んでおり、こちらも取り出しやすいようコンビニのドリンクケースのような構造になっている。


「いいねいいね、使い放題じゃねぇか!」


「また妙な口径だな……トリニティ、これ何mmだ?」


『5,89ですね。アーモリーでも珍しいタイプかと』


「撃てりゃ良いだろ! ほれハジメ!!」


 デルタはタクティカルベストに次々と弾倉をねじ込み、それをハジメに放って寄越した。


「危ねぇな、放るなよ……軽いな」


「多分、重装備の賊に対応するための部屋は別にあるんだろ」


 ベストには防弾プレートが仕込んであったが、ハジメはよくよく考えると要らないかと思って引っこ抜いた。弾が飛んでくるような敵でもなし、身に付けていたとしてもデッドウェイトになるだろうと見込んで。


 要はマガジンが沢山持ち歩ければ、それだけで十分だ。


「しかし、結構銃が持って行かれてるな。警備部門総出でどっかに向かったか」


「守ってるなら奥だろ。定石ってやつだぜ」


 ハジメから渡されたカービンを手に、デルタは槓桿を引いて動作を確認したのち、チェンバーを覗き込んで不純物がないことを確認。その後、銃口に被せてあった安全弁を取り除くと、弾倉を叩き込んで初弾を装填。軽く幾つかのパターンで構えて感覚を掴むと、悪くないことに気付いたようで〝期間限定の相棒〟をゆっくりと下ろした。


「量産されてるだけあって悪くねぇ。構えた感じ重心のクセがねぇし、かなり素直な感じだ。重さも十分あるからリコイルもマイルドだろうな。口径もあんまだし」


「ってことは、ゾンビには向いてないってことだろ。弾は……FMJ(フルメタルジャケット)? ハズレだな」


「そりゃ普通は外から攻めてくる敵、つまり人間撃ち殺すことを想定した弾を用意するから当たり前だろ」


銃弾の弾頭は鋼鉄によって被甲されていた。貫通力を上げることで、今し方ハジメが棄てたような防弾装備に対抗する措置であるが、敵を押し止める衝撃(ストッピングパワー)や、内臓に与えるダメージは弾が〝抜ける〟分どうしても劣る。


 今回のようにゾンビを相手取るには、少し火力が心許なかった。


「ほれ、トリニティも使えよ」


『センサーが搭載されていないので、命中率は大きく落ちると思いますが……』


「銃口は三つある方がいいに決まってんだろ。セコセコ撃てる相手じゃねぇぞ今回」


 デルタから押しつけられた銃を仕方なしに受け取ったトリニティは、簡易に構造をスキャン。弾薬から計算できる火薬の推力と銃口、そして弾頭形状から簡易に火器管制系とフィッティングして、何とか使えるようにした。


 しかし、思えば悲しい慣れである。かつてはヒットチャートを検索し、流行の歌を覚え、それを自分好みにカスタマイズしていた自分が、いつか全銀河放送で自局が流れることを夢見て、給金を叩き導入した編曲ソフトまで容量のために削除し、軍人が使う火器管制システムを搭載するなど。


 正に世も末だ。


 いや、世界が棄てられるなど、ただ終わるより尚悪いかと思いつつ、超技術の唄姫は古臭い火薬式銃に弾を込めた。


「さてと、とりあえず戦う準備はできたが……トリニティ、他の目的地は分かっているか」


『はい、こちらです』


 問われてトリニティはAIを屈服させた時に、最上級クリアランスがなければ取得できない全図を奪取できたのか、外と違って立体投影が安定している空間に映し出した。


「……アリの巣みたいだな」


「なぁ、このデカイ区画は?」


『通称、揺り籠と呼ばれています。アイオーン・バイオメティクスの粋を結集した最高機密の保管場だとありますが、多くのデータは秘匿されています』


「それくらいこじ開けられないのか?」


 ハジメに聞かれ、トリニティは珍しく首を竦めた。


 特に重要な案件であったらしく、この情報を扱っているサーバーやPCはスタンドアロン設計になっているようで、さしもの彼女であろうとネットワークに接続されていないと手出しできないようだ。


「なるほど、本当に重要なデータはネットに繋いでない(スタンドアロン)PCと紙で保管か……」


「ってこたぁ、真っ直ぐ突っ込むのは危険そうだな」


『ですが、アタリはつけました。こちらを』


 地図に光点が三つ浮かぶ。それぞれに名前が振られており、同時にクリアランス上位者であることが表示され、更にはご丁寧にバイタル情報まで記載してあった。この会社は、施設内で従業員に異変が起こった際、直ぐに探知できるよう生体データのリアルタイム観測を行っていたようだ。


 とはいえ、その重要と思われる最上位クリアランスの持ち主は、全員フラットライン、心停止状態にある訳だが。


「なるほど、良い目印だ。よし、先ずはここを目指そう」


「何が起こったかくらいは説明できるようにしないと、ハイランダーが五月蠅そうだからな」


 じゃあ武装も整えたし、一番近い光点に向かおうかとした時、急に足を躙らせながら不愉快そうにトワイラが問うた。


「ねぇ、何だか床の踏み心地が悪くありませんこと?」


「踏み心地? 特に変わったところは……」


「オレら、靴に鉄板入れてるからそういうのイマイチ分かんねぇんだけど」


 言われてハッとしたのか、クインがかがみ込む。そして、じぃっと一見すると何事もない床を観察したのちに呟いた。


「なんか、あみあみがある」


「あみあみ?」


「なんか、ネットみたいなの。すごく、うすい、ほとんどみえない」


 トリニティもしゃがみ込んで目を眇めると、露出している方のカメラアイが収縮して瞳孔が狭まっていく。人間のそれと違って、拡大用にファインダーを絞っている動きだ。


『本当ですね。これは、菌糸のネットワーク?』


「……マジか。ってことはだ」


 ここでハジメは一つの仮設を立てた。


 あのゾンビ達はウイルス系ではなく〝菌糸系〟のゾンビであり、キノコに寄生された故に暴走しているのではないかと。生命としてのサイクルがとても早い菌類に寄生された結果、体内で進化と変異と凄まじい速度で繰り返したと考えれば、あの異様な軍団が形成された理由にも説明が付く。


 そして、極秘開発物とやらは、菌床の元なのではないだろうか。


「なんでそう言える?」


「俺の世界で最大の生物って何だったか分かるか?」


「あー? 鯨とか? オレは図鑑でしかみたことがないが」


「キノコだ」


 オニナラタケという菌類がある。それは樹林の奥深くに菌糸のネットワークを張り巡らせており、コロニー全体の総重量は3トンを超え、面積に至ってはハジメの世界における首都圏の主要都市を全て呑み込めるほどであったという。


「その大きさの巨大生体コンピューターと考えれば、何か狂った研究をすれば、これくらいやらかせるんじゃないか?」


「……マッシュルームに世界が滅ぼされるとか、オレの世界よりギャグじゃねぇか」


『こっちの人にとっては冗談じゃ済まされなかったと思いますけどね』


 こりゃ銃じゃなくて火炎放射器が必要だったなと思いつつ、急場の武装を整えた一行は、一番手近な研究室に向かうのであった…………。

はい、というわけで今回は……キノコの、ズンビー!!

オニナラタケは私が勝手に作った仮想の菌類ではなく実在する世界最大の生物ですよ。スケールが違いすぎて笑っちゃいましたね。


元々は傷付いた神経や脳細胞の再活性化を目的に開発されたという裏設定がございましてよ。

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