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何者でもなく、何者にもなれず、今後とも何者かになるつもりはない  作者: 中原 誓
冬の章

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5/20

散歩キャンセル

 北海道の冬の室内は暖かい。

 だいたいどこの家も23〜25℃くらいの室温だと思う。


 エネルギーの無駄使いと言うなかれ。


 家を温めなければ、壁の中の水道管が凍る。極寒の屋外から戻って来たまま、低体温症になる。

 それに北海道の住宅は断熱性が高いので、暖房をつけたら、どんどん温まっていく。

 暖房はつけたり消したりするより、建物を冷やさないように弱い熱で温め続ける方が、結局は燃料の節約になるというのもある。


 冬の北海道旅行に来た人は、その寒暖差に困ると聞く。

 そりゃそうだ。

 寒さに備えて厚着をしてきたら、店の中は常夏の島。汗をかきつつ外に出れば冷凍庫。

 逆にこちらから関東に行くと、家の寒さに泣く。


 そんなわけで、純然たる道産子の私は、家ではペラッペラのジョガーパンツを履いている。

 回覧板? いちいち着替えるわけがない。

 長いコートを羽織って、裸足で靴を履く。

 なんなら、犬の散歩もそのスタイルで行く。そのスタイルで行って、たまに後悔をする。



 マイナス4℃――雪も止んだし、行けるだろう。


 数日前のことだ。


 散歩をねだる犬を連れて外に出た。

 面倒だったので、冬をなめたいつものスタイルで。

 通常のマイナス4℃なら行けた。

 だがその日は強風で、体感温度はさらに低かった。腿が痛い。戻って着替えるべきか、散歩をサッサと済ませるべきか。


 私は後者を選んだ。


「ほら、早く行くよ」


 わんこに声をかけたが、彼女は玄関前から道路に降りてこない。

 どうした。雪は大好きだろう?


「抱っこする?」


 ウウウ……ウワンッ!


――怒られた。


 でも寒いんだよ。早く行こうぜ。自業自得かもしれないけど、脚が痛いんだよ。冷たすぎてビリビリするんだよ。


 鼻を鳴らしながら道路を覗き込んでいたわんこは、ふと顔を上げて――家に戻って行った。


 えっ? 帰るの? 散歩取りやめ?




 どんなに雪中散歩が好きだって、犬も寒いし、冷たすぎて足がビリビリすることもあるのだろう。


 何事にも限度というものがあると、思い知った。







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