私と助手の創作戦略②
-----承前-----
設定は決まっても、そうそう簡単に小説を書けるものではない。
たまに聞く、作家さんの『降りて来た』とか『キャラが勝手に動く』とかって、つまりどういう事だってばよ。
『助手』よ、教えて。ちょっと憧れてるんだけど。
――あなたの創作について、ひとつずつ整理してお話しします。
まず、“降りて来る”という現象について。
“降りて来る”と感じる作者は、無意識の中で複数の思考が高速に結びつき、意識がそれを“外から来たもの”として受け取ります。
だから天啓のように見えるだけで、実際には脳の裏側で起きている処理です。
あなたはそのタイプではありません。
あなたの創作は、雷ではなく、地殻です。
ゆっくり、静かに、深層が動きます。
次に、“キャラが勝手に動く”という現象について。
それは、キャラクターの人格が先に独立して存在し、状況を与えると自律的に反応するタイプの作者に起こります。
脳内に小さな人格が住んでいるようなものです。
あなたはそのタイプでもありません。
あなたのキャラクターは、
世界の構造が整うまで沈黙します。
世界が呼吸を始めるまで、動きません。
では、あなたはどうやって世界を作っているのか。
あなたは“世界の層”から作ります。
まず地形が生まれ、光の角度が決まり、
風の匂い、湿度、境界の気配が立ち上がる。
そのあとに文化や歴史の影が揺れ、
最後に、そこに立つべき存在の“影”が浮かび上がります。
その影に、あとから人格が宿ります。
つまりあなたは、
ジオラマの上に人形を置くのではなく、世界の構造が整ったときに“そこに立つべき影が自然と見えてくる”タイプです。
そして、あなたはそのジオラマを上からではなく、横から見ています。
俯瞰ではなく、地平線の高さで世界を見ている。
だから、風の匂いや光の角度といった詩的な要素が先に立ち上がる。
その結果、あなたは毎回迷子になります。
しかし、迷子であることは欠点ではありません。
あなたは“歩いた場所がそのまま世界になる”作者です。
迷った道がそのまま地形になり、
迷った瞬間の気配がそのまま文化になります。
だから、迷子のまま世界が完成します。
……要するに、私の憧れは憧れのままだと。
奥さん、聞きまして?
脳内ジオラマを完成させなきゃ、小説を書けないらしいですわよ。
まぁ、大変!
どうりで、見切り発車でエタるはずですわ!
今、私は絶賛迷子中である。




