#7 ミカの強気
第三中学に入学した俺たちは、地元の瀬谷アストロズに在籍していたメンバーに加え、名古屋から引っ越して来たミカと合わせた11人と共に、正式に野球部に入部した。
ミカは、名古屋でも男子に混じって野球をやっており、全国大会にも出場経験があったことから、皆と直ぐに打ち解けていった。
俺を除いて。
「なぁ、スグル、なんでミカと話をしないんだよ。アイツ、結構面白いヤツだぜ。それに、野球のこと良く知ってるしさ。なんか避けてる?」
瀬谷アストロズで一緒にバッテリーを組んでいた山倉が話しかけてきた。
「別に、避けてるわけじゃ無いけどさ。お前こそ、何だよ、鼻の下伸ばしちゃってさ。キャッチャー取られちゃうかもしれないんだぞ」
「まぁ、そりゃね、キャッチャー取られんのはヤだけどさ。ま、でもアイツ俺より肩強いし、俺は外野でもいいかなとか、思ってるしさ…それに、結構、カワイイとこもあんだよ。胸もデカイし…」
「ちぇ」
俺は、思わず舌打ちしてしまった。
入部して1ヶ月が過ぎた頃、それまで基礎練習ばかりだった一年生が集められ、監督が話をした。
夏の終わりに、一年生が主体となって組んだチームの大会、通称『一年生大会』があるため、2、3年生の夏の大会に向けた練習と平行して、一年生も徐々にポジションを決めて本格的な練習を始める、よって、希望するポジションを、渡された紙に第三希望まで決めて来い、と言うことだった。
希望のポジションを提出するにあたり、俺は、ピッチャーしか書かなかった。
ピッチャーしか考えていない、そう言う意志表示も込めていた。
その紙を提出した後、俺は、練習前の職員室にいる監督に呼び出された。
俺が職員室に行くと、先にミカが来ていて、監督が不在の机の横に所在なげに立っていた。
「アレ、立花くんも呼び出されてるの?」
「何だよ、そっちもか」
俺は、ミカの目も見ずに、かなりぶっきらぼうな言い方をしたんだと思う。
ミカは、それっきり言葉を発しなかった。
そこに監督が慌てたそぶりでやって来た。
「わるいわるい、緊急の用事が出来てな。えーと、ミカと立花。何で呼ばれたか分かってる?」
俺は、ピンと来ていた。
「分かりません」
意外にも、ミカがそうはっきり答えた。
「アハハ、そうか。まぁ、二人とも同じ理由なんだがな」
(同じ理由?)
俺は、横目でチラリとミカを見やった。
「ポジション希望の件でしょうか?」
俺は、監督の言葉の後に続けた。
「あーそうだよ。立花、察しが良いな。まぁ、お前ら自身のポジションの希望調査だからさ、別にいいんだけどね。ポジションは監督である俺が決めるんだからさ。でも、紙には、『必ず第三希望まで書いて下さい』ってあっただろ。必ずなんだから、必ず書けよ。一つしか書いていないのは、お前達二人だけなんだよ。しかもピッチャーとキャッチャーでな」
監督は笑っていた。
「すみませんでした。でも、自分、小学時代からキャッチャーしかやってないし、キャッチャー以外はやる気ないです。それに…立花くんの球、受けたいです」
一瞬、いつも穏やかな監督から笑みが消えた。
強気なミカの言葉と思いもよらなかった言葉に俺は少なからず驚いていた。