表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の直球  作者: kachan
4/17

#4 御見舞い



六本木警察署から帰されたあと、俺は、大急ぎで身支度をし、アパートを出たのは9時過ぎだった。


おそらく、9時半頃には、おでんやの女将、田淵さんが入院していると言う、虎ノ門にある病院に着くだろう。


俺は、通りすがりのタリーズで、軽い朝食を済ませ、病院に向かった。


通りの向かい側には、早くから開いている、見舞い客目当てに商売していると思われる果物屋があった。


もちろん、手ぶらで行くわけにはいかない。


受け取ってもらえるかどうか分からないが、一万円分のフルーツを包んでもらい、病院の入院受付窓口にやってきた。



「あの…すみません。昨晩こちらに運ばれてきた、田淵さんが入院していると思うんですけど…」


「あぁ、田淵さんね、えぇ、三階の外科病棟に入院されてますよ。でも…御見舞いは、10時からなんですよ。御家族の方?」


「あっ、いえ、違いますけど…」


「じゃあ、奥の待合室でもう少しお待ち下さい」


壁にかけられた時計に目をやると、9時45分を指していた。


外来患者の待合室ともなっているベンチシートには、沢山の患者が、呼ばれるのを待っていた。


患者ではない俺は、椅子に座るのが憚られて、壁際に向かった。


部屋の隅には、ソフトドリンクの自動販売機があった。


その自動販売機の横には、昨夜、俺が怪我をさせてしまったおでんやの女将のご主人が、少し、虚ろげな表情で立っていた。


一瞬、緊張が走る。


まだ、こちらには気付いていないようだ。


ここで背を向けるわけにはいかないだろう。



「田淵さん」



そう声をかけると、田淵さんは、俺の方に軽く視線を移したあと、また、直ぐに、それまでしていたように、正面を見据えた。



『被害届を出すって息巻いているそうだよ』



江川刑事から言われた言葉が頭をよぎる。



俺は、田淵さんの横に歩みより、膝と両手を床に着き、頭を下げた。



「本当にすみませんでした」



何度も、何度も頭を下げた。


「みっとも無いよ」


暫くして、田淵さんが、俺に声をかけた。


待合室で待つ外来患者達が、異様な光景にヒソヒソ話を始めている。


「本当にすみませんでした。俺にはこんな風に謝るしか出来ないんです」


俺は、さらに頭を下げ続けた。



「土下座もみっとも無いが、僕が言ってるのはそう言うことじゃない」


俺は、頭を上げた。


田淵さんが、腕時計に目を向けた。


「そろそろ10時だな。病室行くか?俺に謝ったって仕方ないだろう」


そう言うと田淵さんは、奥の廊下に向かって歩きだした。


俺は、田淵さんが、振り返りもせずに廊下を左側に折れたの見て慌てて立ち上がり、後を追った。


大きな果物カゴを

抱え、小走りに廊下を進み左に折れると、直ぐに階段があり、2階に上がる踊り場で、田淵さんが俺を待っていてくれた。


俺が現れたのを確かめると、また、階段を上がり始めた。


俺は、田淵さんの3段下をついて歩いた。


確か、3階に入院していると聞いた。


怪我の具合はどうなのだろうか。


「怪我は、大したことはないさ」


田淵さんが、そう切り出した。


「すみません」


そう返す言葉しか浮かばなかった。


3階まで上がると、正面にナースステーションがある。


「あら、田淵さん、もう、検査終わりましたよ」


看護師が、僕の方に訝しげな視線を送りながら、田淵さんに声をかけてきた。


「有り難う」


田淵さんがそう応えると、今度は俺の方を向き、


「じゃあ、行こうか」


そう声をかけた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ