表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の直球  作者: kachan
3/17

#3 女将の怪我



前の晩、自分の店を閉めた後、従業員の一人を連れて、西麻布の交差点近くにある行きつけのおでんやを訪れた。


経営が思わしくない焼き鳥屋を、立ち上げ当初から支えてくれたスタッフに、給料の半減か、クビのどちらかを選択させるためだった。


スタッフのリーダー格だった彼のサラリーは、フルタイムのアルバイトを4人雇える程の金額だったとはいえ、彼を失った時に、自分の店がどうなるのかは、想像だに出来ぬほどダメージが大きい。


それは、分かっているつもりだったが、もはや、店が立ち行かないのだ。


今なら、多少の退職金も付けてやれる。


そう言いかけた時だった。



「もう、潮時だと思ってましたよ。来月から、下北沢にある居酒屋、任してもらうことになってるんです。退職金もいらないっす。そのかわり…」



店のバイトを二人連れて行く。



多分、そう言ったんだろう。


一発殴ったのは覚えている。



「一発殴られるのは覚悟してましたよ。でも、二発目来るんなら、警察呼びますよ。また、暴力で挫折ですか」



口から流れ出した血を拭いながら、ヤツの口から出た言葉に体が凍りついた。


そいつがそんな捨て台詞を吐いて店を出ていった後、俺は、しこたま焼酎を呑んだんだ。


そして、やり場のない怒りを納める術が見つからず、椅子を床に叩き付けたんだ。



「それが、今回の件の顛末か。さみしいもんだな、立花よぅ。全部、自業自得じゃねぇか、あん」


反抗する気にもならなかった。


「あぁ、全部俺が悪いんだ」



「朝までは、ここでお前を預かる。おでんやからは、まだ被害届は、出てねぇ。とにかく、明日、すぐに見舞いに行って誠意を見せるんだな。女将さんは、横浜イーグルスの大ファンで、いつも呑んだくれてるお前の身を案じてたそうだよ。そう言う人を大事にしなきゃダメなんだよ、特に、お前みたいなダメなヤツはな…」



俺に、返す言葉はなかった。


何度も通っていたおでんやの女将が横浜イーグルスのファンだってことは、すぐに分かった。


料理をだすカウンターに、小さなチームフラッグが飾られていたからだ。


多分、俺が横浜イーグルスでピッチャーをしていた立花だってことも、なぜ六本木、麻布界隈でフラフラとさ迷い、呑んだくれているのかも、全てお見通しだった筈だ。


でも、女将さんは何も言わずに、いつもニコニコ話し掛けてくれた。



「そう言う人を大事にしなきゃダメなんだよ、特に、お前みたいなダメなヤツはな」



そんなことは、分かっている。



次の日の朝早く、西本と言う若い刑事に、おでんやの女将さんが入院していると言う病院を教えてもらい、六本木警察暑を出た。


急いで北千住のアパートに戻り、シャワーを浴びて髭を剃り、地味なスーツに着替えた。



土下座して謝ろう。



後は、とにかく、女将の怪我が、酷くないことを祈るのみだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ