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最後の直球  作者: kachan
16/17

#16 『ボイ!』


「ボイ!」


「ボイ!」


「ミカ!右30度、5メートル!」


ゴールの後ろに立っているコーチのような男性が指示を出していた。


(バシッ)


「ゴーール!ナイスシュート、ミカ!」



俺は、フットサルコートの脇にあるベンチに座り、ブラインドサッカーの練習を見ていた。


ゴールキーパー以外のフィールドプレイヤーが、皆アイマスクを着けたまま走り回っている、不思議なサッカーだったが、鈴の音色だろうか、ボールから聞こえる音に反応して皆見事にボールに集まって行く。


「フットサルやられるんですか?」


先ほど受付にいた女性が声をかけてきた。


「あっ、いえ、あのブラインドサッカーに少し興味があって…」


「えっ、そうなんですか?珍しいですね。中々知っている方少ないんですけどね」


「『ボイ』ってのは?」


「『ボイ』って言うのは、ボールに行くときの掛け声なんです。ボールの中には鈴が入っていて、プレイヤーは、その音を頼りに、ボールに行くんですけど、ドリブルしてる側も、ボールを奪いに行く側も、周りが見えてませんから、ボールに近づく時は『ボイ』って掛け声を掛けるんですよ」


「でも、あれじゃゴールが、見えない…」


「自陣のゴールの後ろには、健常者のガイドが一人立って、プレイヤーに指示を出します。今、角度と距離を指示してましたよね。あの指示を参考に、声のする方向に向けてシュートを放ちます」


「でも、皆さん、凄いですね。目を隠したら、とてもあんなこと出来ませんよ」


「このチームは、去年の全国大会で準優勝してるんですよ。さっき連れてきてくれたミカさんなんかは、健常者の時のサッカー経験が殆んど無いのに、今やこのチームのエースストライカーなんです。ホント、血の滲むような努力をしたんだと思うな…あれ、どうかしましたか?」


「いえ…別に…」


「…いらっしゃいますよ。ブラインドサッカー見て、感動して泣かれる方。分かりますよ」


俺は、アイマスクをしながら必死にボールを追いかけるミカを見ながら、自分でも気が付かないうちに、涙を流していた。


ミカが、失明と戦い、血の滲むような努力を重ねている間、俺は、一体、何をしていたのだ。



「ミカ、どうした?まだ、ハーフタイムまで5分あるぞ」


ミカが、コート中央で突然立ち止まり、アイマスクを外して辺りを伺いながら大きな声を発した。


「さっきの方、まだいますか?」


「ここにいるわよ、ミカちゃん。どうしたぁ?」


ミカが少しこちらに歩み寄ってきた。


「もしかして、スグル?」


俺は、黙っていた。


「あなた、スグルでしょ?」


隣の受付の女性が、ミカと俺の顔を交互に眺めながら、目を白黒させていた。


「ミカ、ゴメン。黙って来るつもりじゃなかったんだ。でも、突然目の前にミカが現れたから言い出すチャンス無くして…」


何故か、ミカは俺の声を聞いて、両手で顔を覆った。


「なんだ、知り合いかぁ、じゃあ10分きゅうけーい!」


コーチの男性が声をかけた。


立ち尽くすままのミカに受付の女性が駆け寄り、手を引いて俺が座るベンチに連れてきた。


「二人でお話ししなさいよ」


そう言い放つと、俺にウインクして、去って行った。



ミカは、何故か、俺の前で立ち尽くし、涙を流していた。


ミカ、何故泣いているんだ。


ミカ。



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