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最後の直球  作者: kachan
15/17

#15 再会は突然に


ミカの母から、ミカが向かっていると言う、フットサルコートの場所を電話で聞いた。


大府駅前のロータリーにある地図を見ながら説明を聞いたので、駅から北東の方向に向かって、約1.5キロの位置にあることが分かった。


普段ならタクシーに乗ってもいい距離だが、ミカの母から「ミカはまだそのコートに向かって歩いているかも」と聞いていたので、俺も歩いて行くことにした。


大府駅の北口から歩き始めて15分ほど歩いたころだった。


(キキキィーー)


突然、大きな自転車のブレーキ音が通りに響き渡った。


(バキッ)


(ガシャーン)


俺の20メートル位の前方から、女性の小さな悲鳴も聞こえた。


「何をボケっとしよるで!」


ヘッドホンをしながら、右手に携帯電話を握りしめたその少年は、尻もちをついている女性に向かってそんな罵声を浴びせていた。


俺は、思わずその現場まで全力疾走した。


「ふざけんな、てめぇ、ヘッドホンして、携帯見ながら、前を見てねぇのは、てめぇの方だろうが!しばくぞ、このクソガキが」


俺は、思わずその少年の胸ぐらを掴んで、殴り掛かろうとしていた。


「いいんです、すみません。気を付けますの許して下さい」


その女性は、許しを乞うように何度も何度も頭を下げた。


自転車の少年は、そんな女性の言葉に、俺が怯んでいる隙に、自転車にまたがり、舌打ちをしながら通りの向こう側に走り去って行った。


「大丈夫ですか?」


俺は、その女性に駆け寄り、手を差しのべたのだが、彼女は、差し出した手に反応せず、地面に両手を這わせて、何かを探す仕草をした。


茶色い大きなサングラスをしたその女性が、視覚障がい者であり、探しているのは、直ぐ側に落ちている白いステッキであること・・・そして、その女性が、ミカであることをすぐに理解した。


「怪我はありませんか?」


「ご親切にありがとうございます、もう大丈夫ですので」


俺は、白いステッキを拾い上げ、ミカの手に渡そうとしたが、その白いステッキは、先ほどの自転車との衝突で、真ん中からポッキリと折れていた。


「ステッキ、真ん中で折れますよ」


辛うじて表皮一枚で繋がり、もはや役に立ちそうもないステッキを、俺はミカに手渡した。


ステッキを触りながら少し考える風をしたミカは、小さい溜め息をついた。


突然のミカとの再会に、俺の心臓が激しく鼓動していた。


(ミカ)


喉仏のすぐ下まで声が出かかっている。


「直ぐそこのフットサルコートに向かっているんですが…もしお時間が有りましたら、連れて行ってもらえませんか?」


ミカは、恐る恐る俺にそう申し出た。


「もちろん、良いですよ、俺もそこに行こうとしていたところなんです」


「良かった!助かります。そこに行けば知り合いも沢山いるのでなんとかなります」


「ど、どうすれば良いのかな?」


「あっ、そうですね、私が貴方の右肩に手を添えますので、斜め前を歩いていただけますか?」


ミカは、俺の腕に触れ、左手をそっと俺の右肩に添えた。


「左手にコンビニがあると思うんですけど、このまま150メートルほど進みます」


「了解」


暫しの沈黙が流れた後、ミカが俺の右肩に乗せた左手で肩を擦り出した。


「凄い筋肉ですね…野球ですか?」


「あぁ、中学、高校、その後も少し…」


ミカは、右肩に乗せた手のひらを背中に移し、筋肉の筋に沿って何かを確認していた。


俺の心臓は、もはや破裂しそうな位に爆走していた。


「凄い筋肉ですけど…そうですね、5、6年はトレーニングしてないって感じですか?」


「なんでそんな事が分かるの?」


「私、整体とスポーツトレーナーの仕事してるんです。高校野球のピッチャーの子とかも見てますから、あっ、見えてないですけど、触れてますんで、この肩の凄さ分かりますよ。いいピッチャーだったんでしょう?」


「大したことなかったんだ。コントロールが悪くて…」


「あっ、もうすぐ郵便局がある角に着くと思うんですけど…」


「あぁ、今郵便局の前だよ。隣のビルの屋上にフットサルコートの看板が見えてるよ」


「良かった。助かりました。じゃあ屋上の受付に行きましょう。何方かと待ち合わせですか?」


「いや…今日は初めてで、ちょっとフットサルコートを見学に来ただけなんだ」


「そうですか…」


そうこうしているうちに、エレベーターが屋上階に到着した。



エレベーターのドアが開くと、すぐ正面の小さな建物が受付になっていて女性が二人立っていた。


「ミカちゃん、今日は遅いじゃない、みんな練習始めてるわよ。あらあら、今日はカレシ連れ?」


「ち、違いますよ!さっき、ヘマしてステッキ折っちゃって、たまたま助けてもらって…ついでに連れてきてもらったの。ちょうどここの見学に来るところだったんですって」


「なんだ、ミカちゃんお客さん連れてきてくれたんだ。ありがとう」


「おーい、ミカ、早く来いよ」


既にコートで練習を始めていたメンバーの一人が声をかけてきた。


「あの、今日は、本当に有り難う御座いました。助かりました。ここ、凄くいいコートなんでゆっくり見て行って下さい」


そう言うと、ゆっくり歩きながら、コートの方に向かった。


俺は、受付の女性と少し話をした後コート脇のベンチに座り、ミカ達が始めた『ブラインドサッカー』を眺めることにした。


右肩には、まだミカの手のひらの感触が残っていた。


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