#14 ブラインドサッカー
俺は、7:00ちょうどののぞみ203号に飛び乗り、自由席がある車両に移り、取り敢えず腰をおろした。
平日だと言うこともあり、席は8割り方サラリーマン達で埋まっていた。
運良く窓際の席を確保した俺は、眼下を流れて行く新橋駅のホームを眺めながら、これからどうすべきなのか、考えねばならなかった。
夢に出てきたミカ。
俺のストレートを見事にキャッチはしたが、実際問題、失明した人間が140キロ前後のボールを取れるハズもなかった。
衝動的に家を飛び出し、ミカの住む町へ向かう俺は、一体何をしているのだ。
いきなり現地に着いてから連絡しても会ってくれるのだろうか。
昨夜の酒が残っているのか、考える程に、頭がクラクラしていた。
『間もなく新横浜に到着致します』
現役時代、何度も利用した懐かしい駅のホームに、のぞみが滑り込んだ。
中学卒業以来、会ってもいないミカに突然会いに行くなんて馬鹿げている。
新幹線を降りて引き返そうか。
ミカ。
お前は、俺に会ってくれるのか。
携帯で、目的地の大府駅の到着時刻を調べたら、9時11分だった。
取り敢えず、ミカの住む町まで行こう。
考えるのは、それからにしよう。
一息つく頃に、車内販売のカートがやってきた。
「チューハイと…、あっ、いや、スポーツドリンクお願いします」
ミカに会うかもしれないのに、酒はマズイよな。
俺は、500ml入りのスポーツドリンクを一気に飲み干し、流れる景色を見やりながら、目を閉じた。
ミカに会う?
それにしても、なぜ、俺は、今までミカに会わなかったのだろうか。
岡田コーチに言われるまでもなく、俺は、ミカの姿をずっと追っていた。それは間違いなかった。
それでも、ミカを俺自身がどう思っているのか、自分でも良く分からなかったのだ。
9時11分。予定通り、愛知県の大府駅に到着した。
駅のロータリーに立ち、携帯を手にして、山倉からのメールを開いた。
ミカの実家の電話番号が記されている。
(トゥルルル トゥルルル トゥルルル)
「はい 渡辺です」
柔らかな女性の声が応答した。恐らく母親だろう。
「あの、立花と申しますが、ミカさんはご在宅でしょうか」
「ミカ、ですか?ミカは外出してますけど…失礼ですけど、どちらの立花さんかしら」
「あの…、中学時代に野球部でお世話になった立花です」
「えっ、第三中学の立花君?まぁ、お久しぶりじゃない、お元気?今どこから電話?」
ミカの母親には、中学時代に何度も会ったことがあった。元々、底抜けに明るい性格の様で、試合の時には、グラウンド中に響き渡る声で応援してくれていた。
「ちょっと、愛知の方まで来る用事があったもので。先日、同じ中学にいた山倉からミカさんの連絡先も聞いてましたので、ちょっと連絡でもと思いまして…今、大府駅にいるんですけど」
「んまぁ、何だか悪いわねぇ、ミカの目のことで気を使わせちゃったかしらねぇ」
「あっ、いえ、そう言う訳では…」
「そうそう、ミカね、今、サッカーしに行ってるのよ」
「サッカー…ですか?」
俺は、ミカの母親の説明を理解できずに、聞き返した。
「あっ、サッカーって言ってもね、ブラインドサッカーって言ってね、視覚障がい者向けのサッカーなんだけどね」
ミカがサッカーを?
「ミカがいるフットサルグラウンド、大府駅からそう遠く無いんだけど…立花君、直接行ったらどうかしら?」
俺は、ミカの母親からグラウンドの位置を聞き、直接ミカがサッカーをしていると言うフットサル場に向かうことにした。