#12 西麻布の夜空
「おい、スグル?やっぱり知らなかったんだな」
「だって、中学出てから会ってねぇし、年賀状やり取りしてたくらいだよ。それも、プロやめてからは、止めたけどな」
「俺さ、ぶっちゃけ、スグルは、ミカのこと、好きだったんじゃないかって思ってたんだけど…、違ったのか」
俺は、山倉の言葉に少したじろいだ。
「バカなこと言うなよ。そう言う感情じゃねぇよ。でも、なんだってミカは失明なんかしちまったんだよ?」
「詳しくは、聞けなかったんだけど、どうも糖尿病だったらしい」
「えっ?糖尿って…、生活習慣病だろ?中年のオヤジがなる病気だろ?」
「俺も驚いて聞いたんだけと、どうも糖尿病には先天的…つまり生まれつき、ってのもあるらしいんだ」
「そうなんか…」
「スグル、どうかな。お前からミカに連絡とってもいいんじゃねぇかと思うんだ。OB会には来られないって言うしさ。な、そうしろよ」
「なんでだよ。声は元気そうだったんだろ?俺なんか連絡したって何になるんだよ」
「う~ん、あれはカラ元気だったんだと思うんだ。だからさ、お前から元気づける意味でもさ…」
「やめてくれよ。暴力事件起こして、野球界から追放されてるヤツが、どうやって失明した人間を励ますって言うんだよ。もう、電話切っていいか」
山倉は、ミカへの連絡を渋る俺に、ミカの連絡先をメールで送ってよこした。
ミカは…失明したのか。
西麻布の星が見えない夜空を見上げ、俺の心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
星も見えない、明日も見えない。
俺も失明してるようなもんだよな。
その晩、俺は、家に戻ってから、おでんやで起こした暴力事件の後に止めていた酒を浴びるように飲み、そのまま眠りについたのだった。