#1 プロローグ
暑い。
真上から照りつける太陽の陽射しは、俺の首筋を熱し、脳天に流れ込む血液は、まるで沸騰しているのではないかとさえ思えた。
8回を既に投げ終え、体力を消耗しきっていた俺の肩は限界に達していたと思う。
いや、肩だけではない。
暑さで、意識は途切れそうになっていた。
「スグル!ここだよ、ここ!」
ミットに拳を何度も打ち付け、キャッチャーがど真ん中に構える。
「弱気になるなよ! スグル、さぁ、来い!」
俺は、ユニフォームの袖口で額の汗を拭い、大きく深呼吸をした。
中学野球の神奈川県夏期大会決勝戦は、午前中に行われた準決勝に続いての、ダブルヘッダーだった。
ピッチャーが実質一人しかいない俺達のチームが不利なのは誰の目にも明らかだったが、チームには、勢いがあった。
優勝して、全国大会に行く。
俺達のチームは、燃えていた。
決勝戦は、規定の7回を過ぎ、1‐1の同点で延長戦に入った。
9回の表、自分のチームは、相手のエラーからようやく勝ち越しの1点をもぎ取り、その裏の守備についていた。
9回の裏。
俺はツーアウトまでこぎ着けたあと、ショートのエラーでランナーを出し、ヒットとフォアボールで満塁のピンチを招いていた。
カウントは、3ボール2ストライク。
次の1球で全てが決する。
「スグル、ここだよ!ここ!」
もう一度、キャッチャーのミカが叫んだ。
俺は、薄れゆく意識の中、ミカが構えるミットだけを見ていた。
ミカ。
ミカ。
ミカ。
俺は、自分に残っている最後の力を振り絞り、ミカが構えるミットに向かって、最後の直球を投げ込んだんだ。
その後の記憶は、ない。
俺の直球は、ミカが構えたミットにしっかり届いたのだろうか。