救われない。
結婚式
嫌いな姉の、
結婚式だ。
姉は、華やかな衣装を身に包み、
今この世界で、一番に幸せだ。
そんなオーラが、にじみ出てる。
相手の男も、満足そうな笑みを大勢の人に振りまいて、
胸を張って、姉と腕を組む。
凄く、不快。
姉は、最低の人間だ。
人を、殺した。
何人も、
殺した。
罪のない男性、女性、子ども
みんな、みんな、手にかけた。
死体はどれも惨たらしく。
子どもだった僕は、
見ることを禁じられた。
姉は、頭がおかしかった。
でも、それは父にも当てはまる。
父は姉を全肯定し、
絶対に、否定しない。
殺人も…
肯定。
気持ち悪い。
姉は成人すると、殺人をピタッとやめた。
姉が言うに、飽きたのだと、
僕は姉が嫌いだ。
姉に殺された人々は、
何のために生きてきたんだ。
姉の娯楽としてなんて、
そんなのあんまりすぎる。
僕は許せない。
そんな姉を許せない。
結婚式が終わり、
各々、解散し、
嫁と婿の家族が集められた。
父はこの街の町長で、
婿の親はどちらも教会関係者。
こみいった話をするのだろう。
僕はすぐにでも帰りたかった。
もしかすると、
家の中に、
ひょっとしてかもだけと、
家の中にいるかも知れない、
そんな、情けない希望が、
胸にあったからだ。
家族同士対面しても、
僕だけはしかめっ面で虚空を見つめていた。
そんな僕を無視して、父が話し出す。
「本日は本当にめでたい日ですな、
こんな立派な教会を使わせてもらえるなんて、
本当、ありがとうございます」
姉の結婚式を行った教会は、
婿の親が管理する巨大な教会だった。
本当は住んでた街の教会で行うつもりだったが、
婿の両親のご厚意で、この立派な教会を使わせてもらえたのだ。
「それは、それは、そう言ってもらえて嬉しいですね、
この教会は過去に火災にあって立て直したのですが、
まだちゃんと、過去の面影を引き継いでる。
たくさんの苦労をしてきた教会だからこそ、
使っていただきたかったのですよ」
婿の両親は父の反応を凄く喜んだ。
僕は、心底どうでも良かった。
今すぐにでも、彼女に会いに行きたかった。
父たちが、談笑している中、
僕は立ち上がった。
「帰る」
そう言って僕は席から立つと、
返事も待たずに、
席を発った。
後ろからなにか、
罵声のような言葉が聞こえるが、
もうどうでもいい。
あんな奴ら、家族じゃない。
僕は早足になった。
ためていた怒りが、欲望にぶつかって破裂した。
僕は、彼女に会いに行く。
すると、後ろから、誰かの走る音が聞こえた。
音からするに、
一人だ。
僕は、逃げるつもりはなかった。
追ってきた父に、
今までの鬱憤をぶちまけてやる。
そう思った。
掴まれた。
肩を。
僕は振り向かない。
声が出ない。
先に父を待つ。
父の声を待つ。
この手触りが嫌いだ。
暴力的なのに、優しい。
嫌いだ。
僕は嫌いだ。
父は、何も言わない。
僕の顔から冷や汗が流れる。
初めてではないが、父に逆らうのはやはり怖い。
安易に耐えれることではなかった。
死にたくなってきた。
まともに慣れた気がしたのに、
ここで、あの感じが戻って来る。
僕は病気だ。
治らない。
僕のからだは少しずつ震えだす。
それでも、振り向けない。
父は何も言わない。
どうすればいいのだろう。
耐えれなかった。
彼女のことを考えていた。
それが、こんなことを招くとは。
いい加減もう無理だ、
僕は、ゆっくりと、
首を戻した。