働いて。
男、『ガブリエル』は、
殺人者だ。
片親だったガブリエルは、
自分のためだけに身を削る母を、
心から愛していた。
ガブリエルが十六歳の頃、
母親が、街の流行病にかかり、
働けなくなった。
その影響でガブリエルは、修道院をやめ、
働きに出ることになりました。
ありがたいことに、
恩師である教徒が、働き先を見つけてくれ、
心学に長けていたガブリエルは、
街の教会で務めると同時に、
市民のあらゆる不満や悩み、恐れを聞く、
相談役として駆り出されました。
教会でのお給紙はそこまで高いものではありませんでしたが、
母の病院代には、十分でした。
そしてガブリエルは、母の気が良くなるよう、
母の名が刻まれた、
魔除けのロザリオをあまったお金で買い与えました。
母は大変喜び、日中はそれをずっと着けるようになりました。
ある時、いつものように務めていたガブリエルは、
その神父に呼び出せれました。
内容は、懺悔室となるものが新しくできたので、
ガブリエルに、その役を任せたいと、そういった話でした。
特に断る理由のなかったガブリエルは、
あっさり引き受け、相談役と並行して、
懺悔室を請け負いました。
ガブリエルは、対して相談役と変わらないものと考えていました。
ですが、それは愚かな考えでした。
一番最初、初めの客は、男です。
声を聞くに中年か、またそれ以上か、
ガブリエルは聞きました。
「今日は、どうされましたか」
ガブリエルの声に男は一瞬だけ体を震わせ、
鼓動が早くなりました。
声をかけようと思ったその時、
男は話し始めました。
「あ、あの、こ、ここで話したことは、
外には、漏れないんですよね…」
ガブリエルは嫌な予感がしたが、
教え通り、
「真実を話し、己の罪を受け入れることで、
神は、あなたを許すでしょう。
ここでの話は、外に漏れることはありません。
今話す、私と、あなた以外は、
絶対に知ることはありませんよ」
それ聞くと、男は安心したのか、
ため息を付き、首を下から上にあげました。
「わ、私は、この街で、
医者をしているものです、
…あなたも知っていると思いますが、
この街には今、流行り病が蔓延しています」
「えぇ、知ってますとも、
近隣の修道院が、
流行り病の患者様で、
埋め尽くされてしまった。
本当に恐ろしいですね」
「はい、それで、私も駆り出され、
日々、解決法を探しています…」
男の声が急に低くなる。
「それはそれは、本当にお疲れ様です。
原状回復を、私も神に願います」
「はい、教徒様に言ってもらえるとこころ強い…
それで、実は、その解決法…
もう見つかっているんです」
「…はい?どういうことでしょうか」
「…もう、すでに、流行病は、ただの病気に成り下がりました。
治そうと思えば治せるのです」
おかしな話だった。
今でも修道院には、数え切れない患者と、
救えずに死んだ、
哀れな死者が多数いるのです。
ガブリエルも、その病に侵された母親を救うため、
毎日教会で金を稼いでいるのです。
男は息を飲んだ。
「これは、教会の方針です…
病への治療費と入院費、教会への献金、
はっきりいうと、流行り病は一番儲けるんです」
「……」
「ただの町医者の私は、口止めに利益の二割を、
受け取ってしまいました。
でも、罪の意識が、頭から消えなくて、
かといって相談できる内容でもなくて…」
男は泣いていた。
ガブリエルはその内容に、返せる言葉がなかった。
眼の前で泣いているのは、長い事母を苦しめている悪。
だが、ここは懺悔室、
どんな罪人も受け入れないといけない。
ガブリエルは、引き受けたことを後悔した。
男はそれから、自分を正当化する文言を垂れ流し、
ガブリエルの前で、自らを慰め始めた。
ひととおり話した男は満足すると、
ガブリエルに話しかけた。
「私は…許されるでしょうか…」
(許されるわけ無いだろう)
ガブリエルは心で即答した。
だが、ここは懺悔室、どんな罪人も、
罪を告白したならば、許さないといけない。
「は、はい、罪を受け入れ、自らを戒めれば、
神様はきっと、あなたを許すでしょう」
その言葉に安心したのか、
男は、満足げに出ていった。
残ったのは、不満の残ったガブリエルだけだった。
「…」
それから日の経たないうちに、ガブリエルは教会をやめた。
正しくは逃げた。
もう、誰の言葉も、信じられなかったからだ。
ガブリエルはそのまま、母のいる修道院へと向かった。
母を、そんなところで死なせるわけにはいかなかった。
修道院につくと、
そこでは丁度、
死んだ患者達の火葬が始まっていた。
修道院では、これ以上の感染を防ぐため、
死体を集団で燃やし、
菌を消滅させるのだ。
ガブリエルは、すぐに、母のいる病室に向かいました。
だが、
ベットの上には誰もいません。
ガブリエルは、嫌な予感がしました。
すぐさま、火葬場へいくと、
死体は既に、だが誰だか、わからなくなっていました。
真っ黒に焦げた、肉の匂いに、
吐きそうになりながら、
ガブリエルは、燃えカスとなった死体を漁り始めました。
もちろん見つかるわけがありませんでした。
彼は、彼女の母親を犯し、
孕ませた。
母親となる女性は