眠くて。
彼は、名乗った。
「僕は『サキ』って言います」
また、運命だと思った。
彼は、つい最近、この街を訪れたのだと言う。
彼の姉が、結婚式を開き、
その招待状を受け取ったのだ。
結婚式は明日。
でも、彼は行きたくなかった。
姉が、大嫌いだったからだ。
それで、街を彷徨いてたら、
私に見つかった。
彼は言う。
私に。
「君は…なにか…特別な感じがする…」
私も彼に、自分も同じだと伝えた。
すると、彼は目を見開いて、
私をみた。
鼓動が高くなってる。
体に触れたわけでもないのに、
空から、たくさんの振動が響く。
これは彼の鼓動。
そして私も。
私は急に、自分の姿が恥ずかしくなった。
血に塗れて、薄汚れた布を腰に巻いて、
上には何も着ていない。
普段と変わらない、いつもの服装。
でも、なぜか急に、
羞恥心が。
彼は、私にとってのアダムなのかも…
すると、彼も目を逸らす。
私の胸を見て、
顔が、赤くなった。
私はそれが、とても嬉しかった。
人を食べる時とは、全く違う快感。
危険な感じがしない。
懐かしい感じがする。
まだ、幸せだと信じてた、
あの頃の。
彼は、私を、
きっと、
元に戻してくれる。
彼からたくさん話を聞いた。
自分には、愛する母がいる事、
ずっと愛されて生きてきた事、
その中で、人を貶して喜ぶ姉が嫌いな事、
今、私といたいと言う事。
反対だった。
私の人生とは全く真反対の人生。
だからこそなのかもしれない。
反対だからこそ、
なぜか惹かれる。
彼は危険に、
私は安全に、
どちらも惹かれ合っている。
私は、どうにか、彼を手に入れたいと思った。
でも、難しい。
求愛なんて、した事がなかった。
知っていたのは…
“ガサゴソッガサ”
「ちょっちょっと!」
サキは、私を制止した。
私は、彼の混乱の意味が分からなかった。
いつも、これをすれば、
皆んな喜んでくれた。
でも、彼は全く喜んでない、
むしろ、私の手を掴んで、
今すぐにも、やめてほしそうだ。
「駄目だ、そんな事しちゃ、
もっと自分を大切にして」
彼の瞳は、真剣そのものだった。
その瞳には、光があった。
潤とした色が私を吸い込む。
私は、サキに、
口をつけた。