16/34
押して。
彼女は、
何もしなかった。
首を噛み、そして僕を食べようとした。
多分、食べようとした。
でも、食べなかった。
そこでそっと口を離して、
僕の涙を舐めた。
また、感情が増えた。
これは、疑問。
さっきまで、僕の事を殺そうとしていた彼女が、
今、犬みたいに顔を舐めた。
正直、悪い気はしなかった。
血塗れで、目の焦点が合ってなかったけど、
一つ、美しいな。
そう思った。
彼女は美しかった。
まるで食人鬼とは思えない美貌。
そんな子に、顔を舐められた。
これは、高揚しないわけがない。
僕は恐怖していた。
そして勃っていた。
恐怖は生存本能を無理やり引き出すんだなと、
そう思った。
彼女は、血のついた舌を向けて一言。
「あなたも……」
そう言った。