息をして。
その街には、噂があった。
「はぁっはぁっ」
深夜○時を過ぎても、外にいると。
「うっあっはぁッはぁっやめろっ」
狂人に喰い殺されてしまうのだ。
「やめてくれッ!俺がアンタに何をッ…」
僕は愚かにも、その噂を知らなかった。
ガブッ
喉を噛まれた僕は、声が止まる。
初めての感覚だったからだ。
小さい頃、遊び心で飛んでた鳥を撃ち落とし、
父親に叩かれた。
それからは、命には順位があると知った。
弱いものは、自分より強いものには勝てない。
強いものも、自分もり強いものには勝てない。
その後、父親に連れられて、
鳥の埋葬をした。
その時、自然と涙が溢れた。
父親への恐怖心もあったと思う。
でも、その時頭で考えていたのは、
心からの謝罪。
パチンコで鳥を撃った時、
そんな感情は一つもなかった。
その日初めて、感情は増えていくんだと知った。
そして今、僕は、泣いている。
あの時と同じ涙だ。
僕は謝罪した。
あの撃ち落とした鳥に対してかもしれない、
今、首を食いちぎろうとしている彼女に対してかもしれない。
ただ、心から誰かに謝罪している。
そして、もうひとつの感情が、僕から生まれた。
それは諦め。
もう死ぬんだと、直感で分かった。
噛み付く歯は甘噛みなんかじゃない、
本当に噛みちぎろうとしている。
犬歯が皮膚を貫通し、血が垂れている。
今何かした所で、もう死ぬのだ。
じゃあせめて、遺言を遺したい。
締まる喉をなんとか開き、僕は声を出した。
「ご…めん、な、さい」
そう言葉を出した僕の声は、震えていた。
そして、意を決して、僕は目閉じる。
生涯十八年、まだ、やりたい事はあった。
でもまぁ、人はあっさり死ぬ。
彼女は、息を吸った。