現代3
病室の中で小説を何冊か読んでると、ある感情が過る。
私は無限の世界を旅することができるんだなと。
そんな思いに、気を病室の窓から吹く風に乗せる。
風は、ビュー、ビューと音を鳴らし、
その音に続くようにコツコツと誰かの足音が、
コン、コンと、ノック音。
「入りますよ」
診察の時間か。
「何か思い出しましたか? えっと名無さん」
スライム人間の先生は、私に聞くも私は、首を横に。
「先生は、本でも読めば何か思い出すとか言ってましたけど。駄目そうですね」
「刺激が大事なんですよ。思い出すきっかけが」
そういい先生は、テレビをつける。
「別に本じゃなくてテレビでもいいんですよ、ゲームでも。運動でも」
「運動はまだ一応駄目ですけどね」
テレビを見ると、子供向けの教育番組が映っている。
もし、私に子供がいるなら今頃、心配してるだろう。
子供がいなくても、同僚・彼女・頻繁に行くパン屋の店員、
誰かが、私を認知しており、思っているはずだ。
「先生、私はここの人じゃないんでしょうね」
「そうかもしれないね、もう一週間立つというのに見舞いもこないしね」
「もしかしたら、私は誰にでも知られない孤独な……」
先生は冷たくひんやりとした手で、私のおでこに触れる。
「そんなことを考えるんじゃないよ」
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「ルビィ、僕は駄目かもしれないよ。また教官に怒られたよ」
「戦争なんて……」
私はローに喝を入れようと、頬を優しくビンタする。
音も鳴らないほどの、頬に手が触れただけのレベル。
「そんなこと考えてるから駄目なのよ」
ローは、向いていた目線を、私に合わせ、
「ごめん」
と。
私だって、分かる。
分かってはいる。だけど、これが現だ。
なら戦うしかない。
この国のままだと、ここにいるほとんどは戦争に行き、死ぬ。
なら勝つしかない。
勝つために生まれたのだから、生きるために勝つしかないのだ。