第99話「実は」
「……♪」
現在美咲は、楽しそうにニコニコの笑顔で料理をしている。
耳心地のいい鼻歌も聞こえてくるので、上機嫌になっているようだ。
俺はその後ろ姿をリビングから眺めており、目の前には笹川先生が座っていた。
「美咲、楽しそうですね」
視線を向けたことに気が付かれたようで、笹川先生は笑顔で話しかけてくる。
「料理上手ですし、好きなんですかね?」
美咲が作る料理はお世辞なしでおいしい。
食べるのが好きで意外と食事には口うるさいというか、こだわりがある心愛が喜んで食べていたくらいだし、彼氏ビイキでもないだろう。
「家事が好きな子ですしね。将来の夢は、お嫁さんらしいですよ?」
そう言って、頬に手を添えながら意味深な笑みを向けてくる笹川先生。
わざと言ってきているやつだ、これは。
「無責任なことは言えませんが、捨てられないように頑張ります」
「さすがにそれはないでしょう」
苦笑しながら返すと、同じように苦笑で返されてしまった。
実際、美咲がそう簡単に俺を嫌ったり捨てたりすることはないだろう。
愛情深い子だし、とても優しい子でもあるから俺に気を遣いそうだ。
でも、それは嫌われないということではない。
気を付けていないと、愛想を尽かされてしまうこともあるはずだ。
ましてや美咲は、異常なほどにモテるのだから。
――そう。
かっこよくて優しい、そして頼りになる男が現れたら鞍替えをしても不思議ではない。
「未来のことなんて、誰にもわかりませんよ」
神ではないのだから、将来どうなっているかなんて誰にもわからない。
もし未来視ができる人がいるのであれば、今頃億万長者になっていることだろう。
「もちろんそうですが、あの子が白井さんから離れられるとは思えませんので。かなり依存されてしまっていますよ、あの子に」
依存――まさか、あの清楚可憐な笹川先生がそんな言葉をチョイスするとは。
でもまぁ、そうなのかもしれない。
自分で言うのもなんだけど、美咲がこれだけ一緒にいたがるのを見るとやっぱり依存されているんだろう。
後、凄く甘えん坊だし。
偽カップルになる前と別人かって言いたくなるくらいに、イメージが変わったもんな……。
「まぁ、困ることはないですし、頼りにされるのは嬉しいから問題はないのですが」
「ふふ、白井さんはそうおっしゃられると思っていました。まだ学生とは思えないくらいに、余裕がある方ですからね」
笹川先生は相変わらずニコニコとしながら俺を見つめてくる。
どこか楽しそうだけど、見つめられている側としては照れくさくなってしまう。
美咲の姉だけあって、この人も凄く美人なんだよな……。
その上、思春期の男子には目のやり場が困る体つきだし。
「実は私――美咲が白井さんと付き合うことを、昔から少しだけ願っていたんです」
「……えっ?」
別のことに気を取られている際に、不意打ちで言われた本音。
俺は思わず彼女の顔に視線を向ける。