第93話「彼氏として」
「来斗君は……お姉ちゃんの味方なの……?」
俺のほうを見上げてきた美咲は上目遣いになり、縋るような目で尋ねてきた。
笹川先生は悪くなく、俺たち――美咲が、悪いという言い方をしたからだろう。
「俺は美咲の味方だよ」
何か美咲が困った時、俺は美咲のために動くし、美咲を他人に傷つけさせはしない。
そこは絶対だ。
「でもそれは、なんでもかんでも美咲を肯定するっていうわけじゃない。美咲が間違ってると思ったら間違ってるって言うし、駄目だと思ったら止める。悪いことまで肯定したら美咲のためにならないし、俺は彼氏失格だと思うんだ」
惚れた弱味という言葉があるけれど、相手に嫌われるのが怖くて注意できないのだったら、それはお互いのためにならない。
ましてや、間違ったまま進んだ時、泣くことになるのは彼女だ。
それが友人関係だったり、仕事だったり、親子関係だったりなど場合によるだろうけど、痛い目を見る可能性が高い。
そのまま突き進める人間など極わずかだろう。
そうならないように正してあげるのも、俺は彼氏の役目だと思っているのだ。
「…………」
「俺のことが気に入らないなら、それでもいいよ。俺はこういう人間だし、合わないのは仕方ないから」
絶対的に彼女を甘やかし、擁護する彼氏がいいなら、悪いけど俺はなれない。
それは根本的な人の考え方として、俺とは合わないからだ。
美咲もそれは、付き合う前からわかっていると思ったが……。
「うぅ……」
美咲はグリグリと俺の胸に顔を押し付けてくる。
言い方がきつく感じたのだろう。
俺は優しく彼女の頭を撫でながら、再度口を開く。
「別に美咲を拒絶しているわけではないから、勘違いはしないでほしい。それに俺は、間違ってることをちゃんと指摘することが美咲のためになると思ってるからそうするって言ってるだけで、美咲の敵になりたいわけでもない。さっきも言った通り、俺は美咲の味方だから」
これで彼女が納得しないのなら、また落ち着いた時に話したほうがいい。
冷静にならなければ届かない言葉もあるだろう。
ましてや、今は心の余裕がない状況だろうし。
ただ――そうなると、美咲と笹川先生の問題が解決していないので、そちらが困るのだが。
まぁ笹川先生のほうはもう大丈夫だと思うけど、俺と今雰囲気が悪くなっていることに関しても、美咲が笹川先生に八つ当たりをする可能性がある。
いったん、連れて帰って冷静になるのを待ち、説得したほうがいいだろうか……?
母さんにはいろいろと言われるかもしれないが、首を突っ込んだ責任がある。
中途半端に帰ることはやったらいけないことだ。
そんなことを考えていると――
「ご、ごめんなさい……」
――美咲は涙を流しながら、謝ってきた。