第90話「姉妹喧嘩」
「な、なんでそのこと言っちゃうの……!? 関係ないでしょ……!?」
美咲の文句が、ナチュラルに笹川先生の私生活がだらしないことを暴露していたので、笹川先生が慌てながら美咲に問いかける。
その姿は、普段の大人びた品性溢れる女性からはほど遠く、まるで子供みたいに拗ねているように見えた。
美咲と同じで、根が子供なところがあるのかもしれない。
少し……かわいいと思ってしまった。
というか、笹川先生。
お風呂上がりに下着姿でうろついていることを認めていることになるのだけど、それはいいのだろうか?
とぼければ、俺が信じないという可能性だってあったのに。
俺は心の中でそう思うものの、彼女に対してツッコミを入れる度胸はない。
「今回のことは、お姉ちゃんのだらしなさが招いた結果でしょ……! ちゃんと服を着てくれてたら、何も問題はなかったもん……!」
おそらく美咲にとって特に大切なのは、そこなのだろう。
実の妹だとしても、笹川先生が凄く魅力的な女性だということに美咲は気が付いている。
だからこそ、姉のほとんど裸みたいな下着姿を彼氏に見せられたことで、彼氏が姉へ乗り換るんじゃないかと危惧し、そんな状況を作った姉に噛みついているんだと思う。
その上、実の姉ということで遠慮がなくなっているところもあるはずだ。
ほぼ関わりがなかった頃だけでなく、深い繋がりを持った今でも、美咲に対する印象は誰にも怒りそうにない心優しい少女、という感じである。
もしこれが、笹川先生以外の女性だったらまた対応は変わっただろう。
少なくとも、相手に直接文句を言うことはなかったはずだ。
……まぁ、鈴嶺さんが相手だった場合はわからないけど。
別方面ではあるが、あの子も美咲や笹川先生とほとんど変わらないレベルで美人だから、美咲が過剰な嫉妬を抱く可能性は十分考えられるし、幼い頃からの気心知れた仲というのがある。
ただ、鈴嶺さんは鈴嶺さんで美咲が怖がっている部分もあるようなので、多分本人に直接文句は言えないだろう。
「自分の家でどういう格好でいても、私の勝手だよね……!?」
俺が考えごとをしている間にも、姉妹の言い合いは熱を帯びていく。
美咲に暴露されてから笹川先生にも余裕がなくなったようで、臨戦態勢に入ったように見えた。
まずいな……。
これ、ヒートアップしていく一方じゃないか……?
俺が知る中で一、二を争うほどに優しそうな二人が言い合いを始めるなんて、昨日までの俺なら想像もしていない事態だ。
やはり美咲を引き離したほうが良さそうか……?
「羞恥心とか、乙女としての恥じらいは持つべきでしょ……!」
笹川先生の反論に対し、美咲はすぐに言い返してしまった。
家でだらしない部分に関しては普段から思うところがあったようなので、怒りに支配されている今はその辺の不満も抑えられなくなっているのだろう。
とはいえ美咲。
それ意味としては、ほとんど同じだと思うんだが……?
頭に血が上りすぎて、彼女は冷静な判断ができない状態にあるようだ。
「もとはと言えば、連絡もなしに男の子を連れ込んだ美咲のせいだよね!? 私に黙って連れ込むなんて、やましいことでもしようとしていたんじゃないの!?」
そして、笹川先生にとても痛い部分を指摘されてしまう。
さて、ややこしいことになったぞ……。