第85話「そりゃあこうなる」
「……ふぇっ?」
一瞬何をされたのかわからなかったのか、美咲はキョトンとした表情で目をパチパチと瞬かせる。
しかし、すぐに理解が追い付くと――
「~~~~~っ!」
――相変わらず、言葉にならない声を上げて悶え始めた。
「上書きなら、これで十分だよ。いい思い出だ」
「ななな、なんで!?」
美咲は目を見開きながら、真っ赤にした顔で尋ねてくる。
かなりテンパっているようだ。
「何がだ?」
「キ、キス、いきなり……!」
言葉がうまく出てこないらしく、彼女は断片的にしか言ってこない。
「美咲が上書きしたいって言ってたんだろ? 別に脱がなくてもキスで十分だったから、そうしたんだよ。彼女に初めてキスをしたら、当然そのことでいっぱいになるからな」
慣れないことをした俺は、顔には出さないよう努めているだけで、心臓はバクバクだ。
当然、頭も美咲のことでいっぱいだった。
「ふにゅぅ……!」
許容範囲を突破したのか、美咲は変な声を出して俺に体を預けてくる。
手で美咲の体を離して顔を見てみれば、目がグルグルと回っていた。
しまった、こうなる可能性を見落としていたな……。
美咲はこういうことに耐性が全然ないので、頭がショートしてしまったらしい。
とはいえ……まさか、頬にキスをしたくらいでこうなるとは思わなかった。
「――大丈夫か……?」
俺は美咲をベッドの上で横にさせ、膝を枕代わりにして頭を撫でる。
「んっ……」
美咲は俺の太ももに手を添え、目を閉じてリラックスしていた。
……もう、素に戻ってないか?
と思うものの、声を掛けるのは憚られて俺は頭を撫で続ける。
少しだけこのままにしておこう。
それにしても――笹川先生は、戻ってこないな……?
てっきり服を着たら何かしらのアプローチがあちらからあると思っていたのだけど、今のところその気配はない。
もしかしたら、気まずくて俺と顔を合わせないようにしているのかもしれない。
となれば、こちらから声を掛けるのもやめておいたほうがいいだろう。
美咲もちゃんと落ち着かせて怒りさえ抑えることができれば、俺が帰っても喧嘩をしないだろうし。
俺はそのまま、美咲が満足するまで頭を撫で続けるのだった。