第81話「彼氏の好み」
何が起きたのか理解ができていない人間が二名と、目の前に現れた魅力的過ぎる姿に目を奪われている人間が一名。
三人が三人、黙り込んでピクリッとも動かない。
いちゃついていた俺と美咲の前に現れた笹川先生。
どうしていないはずの彼女が現れたのか――ということよりも先に、俺は一つ疑問があった。
なんで、下しか穿いてないんだ……!?
というのも、下着姿は下着姿だが、本当に布を一枚下半身に纏っているだけで、他には何も身に着けていないのだ。
まるでブラジャー代わりだと言わんばかりに、いつも後ろで括っている髪の毛が解かれて前側に垂れているが、下手をしなくても少しずれるだけで見えてはいけない部分が見えてしまう。
あまりの扇情的な姿に、俺は目を離せなかった。
「――っ!」
三人の中で一番最初に動いたのは、意外にも美咲だった。
彼女は瞬時に俺の目を――パチンッと、勢いよく手で押さえる。
「いってぇっ!」
当然、全力で押さえられた俺の目はダメージを喰らった。
目と目の周りがかなり痛い。
「ご、ごめん! でもこれは仕方がないっていうか、お姉ちゃん早く出ていってよ……!」
美咲は焦っているようで、涙声で大声をあげる。
それによって我に返ったのか――
「~~~~~っ!」
――笹川先生が言葉にならない声を上げた後、勢い良く閉まるドアの音が聞こえた。
言われた通り、部屋を出ていったようだ。
いくら妹の彼氏で学生とはいえ、ほとんど裸を見られたようなものなので、大人の彼女でもやはり恥ずかしかったらしい。
「……もういいんじゃないか……?」
まだ目を押さえられていた俺は、自分の手でゆっくりと美咲の手を離させる。
そして腕の中にいる美咲の顔を見ると、なぜか涙目になっていた。
「なんで泣いてるんだよ……?」
「……私、お姉ちゃんにここまでの怒りを覚えたのは、初めてかも……」
いや、多分怒りたいのは笹川先生のほうだぞ。
そうツッコミたくなった。
ノックをしなかったのは彼女の落ち度だけど、寝起きだったみたいだし、そもそもここは彼女の家だ。
連絡なしに上がった俺たちのほうが悪い。
「恥ずかしい思いをしたのは笹川先生なんだし、勝手に上がった俺たちが悪いんだから、怒らずに謝らないか?」
美咲が何に対して怒っているのかはわからないけど、俺は優しく頭を撫でて落ち着かせる。
すると、彼女は不満そうに俺の目を見つめてきた。
「何をそんなに怒っているんだよ……?」
姉のあんな姿を見たのなら俺に対して怒りを抱くのはわかるが、美咲は笹川先生に怒りを覚えたと言っていた。
だから多分、ただ機嫌が悪いだけで俺に怒っているわけではないだろう。
「だって知ってるもん! 来斗君、本当はお姉ちゃんみたいなえっちな体が好きだって! 海の時だって、お姉ちゃんの水着姿だけ反応が全然違ったし……! さっきも、見入ってたし……!」
――いや、普通に俺にも怒っていたようだ。