表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/122

第8話「継続的なお礼」

 昼休み――。


「んっ、準備おっけー」


 敷地内にある人通りが少ない芝地に移動すると、美咲はレジャーシートを敷いた。

 そして、靴を脱いでそれに乗り、笑顔で俺のほうを見てくる。


「どうしたの? おいでよ」


 どうやら、俺が彼女に続かなかったことが気になるらしい。


「いや、相変わらず準備が良すぎないか……?」

「だって、教室で一緒に食べるわけにはいかないでしょ? ジロジロ見られて、居心地が悪いと思うもん」

「まぁ、そうだが……」


 教室なんかで食べたら、絶対みんなは俺たちを見るだろう。

 今や、学校一有名なカップルになっているのだから。


 いわば、時の人だ。


 屋上や中庭は人気(にんき)なので、他の生徒たちがいる。

 そのため、わざわざ人気(ひとけ)がないここにした、というのはわかるのだけど……。


「やっぱり、準備がいい……」

「準備がいいのはいいことでしょ!? 悪いより全然いいじゃん……!」


 俺の苦笑いに気付かれたようで、美咲は怒ってしまった。


 ――いや、プクッと頬を膨らませてジト目を向けてきているので、拗ねているのか。

 珍しい表情だ。


「文句を言っているわけじゃないんだ」

「私には、文句に聞こえますが……?」

「そうじゃなくて、とんとん拍子に話が進んでて、怖いんだよ」


 (おも)に、俺に都合が良すぎることが気になる。


 もちろん、俺が美咲を好きだというわけじゃない。

 だけど、学校のマドンナと二人きりで、しかも彼女の手料理を食べるなんて状況――ほとんどの男子が、羨ましく思うものだ。


「まぁ、状況が状況だし……はい、お弁当」


 美咲は俺が言いたいことを理解したのか、頬を(しぼ)めて、シンプルで大きな弁当箱を手渡してくる。

 美咲がもう一つ手にしているのは、かわらいしい花柄がついた小さな弁当箱なので、彼女が普段から沢山食べるわけではないらしい。


 ちゃんと、俺が食べることを考えて用意してくれたようだ。


「本当にいいのか……?」

「お詫びとお礼だから、遠慮せず食べて。それに、食べてくれないと逆に困るかな」


 美咲は仕方なさそうに笑いながら、肩を(すく)める。

 確かに、ここで食べなければ弁当が余るだろう。

 せっかく作ってくれているのに、捨てさせるのは申し訳ない。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……ありがとう」

「どうぞ、召し上がってください」


 お礼を言うと、ニコニコ笑顔を返されてしまった。

 人当たりが良すぎて、惚れる男子が多いのもよくわかる。


 ただ――。


「…………」


 なぜか彼女は、弁当箱の蓋に手をかける俺を、ジッと見つめ始めた。

 そんな熱い視線を向けられると、さすがの俺でも気になる。


 というのは冗談だが、やけに真剣にこちらを見ているな?

 単純に、自分が作ったものに対する感想が気になっていて、俺が食べるのを待っているのだろうか?


 ――いや、多分違うな。


 感想が気になるようなソワソワした態度ではなく、真剣に――まるで、獲物がかかるのを待つかのように、俺の行動をジッと観察しているように見える。

 そう、何かを切り出すタイミングを(うかが)っているような――そういう感じだ。


「まだ何か、話があるようだな?」

「えっ!?」


 弁当箱を開けようとした手を止め、美咲を見つめ返す。

 それによって彼女はあからさまに動揺し、キョロキョロと視線を彷徨(さまよ)わせ始めた。


「な、なんのことかな~?」

「とぼけるなよ。もう既にとんでもない状況になっているんだ、今更何を切り出されようと驚かない」


 とりあえず、話を聞いてから弁当は食べたほうがいいとは思ったが。

 くそ、お腹空いてるのに……。


「えっと……怒らない……?」

「聞いてみないとわからない」

「うっ、そこで何も聞かず許してくれないのが、来斗君らしいよね……」


 そりゃあ、聞かない限り判断なんてつかないからな。

 美咲が怒らせるようなことをするとは思えないが、彼女のことを知り尽くしているわけじゃない。

 むしろ、知らないことのほうが多いかもしれないのだ。

 それなのに、手放しに信用はできない。


「すぅ……ふぅ……」


 誤魔化せない――そう思ったのか、美咲は深呼吸をする。

 そして、覚悟を決めた表情になり、キョロキョロと周りに人がいないことを確認すると、ゆっくりと口を俺の耳元に近付けてきた。


「その……私たち、これから恋人のフリをしていく……で、いいんだよね……?」


「……今更、何を言い出すんだ?」


 予想以上に頓珍漢(とんちんかん)な質問をされてしまい、思わず素で塩対応をしてしまった。


「うぅ、そんな目で見ないで……!」


 自分がどれだけ愚かな質問をしたか自覚しているようで、美咲は顔を手で隠してしまう。

 だけど、俺は追撃(ついげき)することにした。


「いや、がっつり外堀を埋められた後に、こんな確認をされたってもうどうしようもないからな?」

「ですよね、ごめんなさい……!」


 (みな)まで言わなくても、言いたいことはしっかり伝わっているらしい。


 今更ここで嫌だと言ったところで、既に俺たちがカップルだと学校中で認知されている。

 後戻りなど、できるはずがないのだ。


 彼女もそれがわかっているから、先に弁当で俺の機嫌を取ろうとしたのだろう。

 もしくは、弁当を食べてしまえば、文句を言うことに対して俺が罪悪感を抱くと思ったのか。


 どっちであろうと、まだ食べていない俺には関係がない。


 とはいえ――。


「まぁ、怒ってるわけじゃないから、謝らなくていいさ」


 別に彼女を追い詰めたかったわけじゃないので、怒ったりはしない。

 ちょっと納得がいかなかったから、切り込みはしたが。


「でも、私がしたことって、最低だと思うから……」


「俺を利用したことか? 別に、告白されることに悩んでいたのは知っているし、心愛相手に彼女のフリをしてもらっているんだから、先に言ってくれても結果は変わらなかったと思うぞ?」


 そりゃあ、学校中を敵に回すことになるのはなるべく避けたいが、元々嫌われていたのだ。

 彼女が困っていて助けになるのなら、彼氏のフリくらいはする。


 別に、俺に好きな人がいるわけでもないしな。


「心愛ちゃんが思い込んじゃったのも、原因は私だし……」

「……そういえば、そうだったな」


 確かに、思い返してみれば心愛に付き合っているフリをしないといけなくなったのも、彼女のせいだった。


 すっかり、学校の騒ぎのせいで忘れていた。


「まぁでも、終わったことだ。今更文句を言ったりはしない」


 文句を言ってどうにかなるなら言うが、どうにもならないことに言っても仕方がない。

 彼女だって、悪気があるわけじゃないんだし。


 というか、最初に付き合っているフリをしたのは、俺だしな……。

 自分のことを棚に上げて、彼女を責められるわけがなかった。


「来斗君……」

「それに、この弁当がお礼だけじゃなく、お詫びなんだろ? それなら、これで手打ちだよ」


 あまり引きずられるのは好きじゃないため、俺は弁当で手打ちにしようとする。


 だけど――彼女は、それだけで終わらせたくないようだ。


「えっと……来斗君が嫌じゃなかったら、これからもお弁当を作らせてほしいの……」

「えっ?」

「ほ、ほら、恋人としてやっていくってことは、継続的なことになるから、お礼も継続的なことでしたくて……」


 美咲は、両手の人差し指を胸の前で合わせながら、モジモジとさせて言ってきた。


 相変わらず、まじめというか、なんというか……。


「いや、さすがにそこまでしてもらう必要はないだろ……?」


 毎日ってことは、それだけ材料費と手間がかかるわけで、気が引けてしまう。


「うぅん、それくらいさせてほしいの。だって、この関係は君にメリットがないし……私には、それくらいしか君に返せないから……」


 何を言い出すかと思えば……。

 彼女は、あれだけ多くの人間が憧れておりながら、自分の価値を理解していないのだろうか?


「学校のマドンナの、彼氏役――ってのは、普通の男子からしたらご褒美すぎるだろ?」


 間違いなく、俺の代わりを募集したら、立候補者が続出する。

 それくらいのこと、実行しなくてもわかるぞ。


 しかし――。


「そうじゃないの……。きっと、このまま恋人みたいなことをしていくと――私、君を凄く傷つけちゃうと思うから……」


 そう言ってきた彼女は、凄く悲しそうな表情を浮かべた。


 もしかしたら、彼女が誰とも付き合わないのは、何か理由があるのかもしれない。

 美咲の泣きそうな表情を見ると、俺はそう思わずにはいられなかった。

話が面白い、美咲がかわいいと思って頂けましたら、

評価やブックマーク登録をして頂けますと幸いです(≧◇≦)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『数々の告白を振ってきた学校のマドンナに外堀を埋められました』5月23日1巻発売!!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
数々1巻表紙
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  


『迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について』8巻発売決定です!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
お隣遊び6巻表紙絵
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  


『迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について』コミック2巻発売中!!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
お隣遊びコミック2巻表紙
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ