第76話「天然かどうか」
「――静かだね……?」
シーンと静まり返った夜道を一緒に歩いていると、美咲が俺のほうを見上げてきた。
「田舎だからな」
都会のほうはどうか知らないけど、田舎の夜は本当に静かだ。
お店が少ないから人があまりいないというのと、みんな夜は外に出ないというのがある。
静かな場所が好きな俺としては、こういう夜のほうがいい。
まぁ車がたまに通るので、完全に静かというわけでもないのだけど。
「一人でこんな中を歩いて帰るってなると、怖いけど……今は、来斗君がいてくれるから……安心してる……」
美咲はそう言うと、甘えるように繋いでいる手をニギニギとしてくる。
明かりは街灯と家から洩れる灯りくらいしかないので、暗闇が苦手な人間からしたら確かに怖いだろう。
美咲の場合、ただ甘えたいだけのように見えるけど。
「まぁ、一人より二人のほうが心強いよな」
「…………」
ちゃんと肯定したのに、なぜか美咲は不満そうに見つめてくる。
何かまずかったんだろうか?
「どうした?」
「わかってていじわるで言ってるのか、それとも本気で言ってるのか、どっちなのかなぁって」
ふむ……?
そんな含みを持つような返しを、俺はしたか……?
「別に何か思惑があるとかじゃないが……」
「来斗君って、若干天然なところがあるよね?」
「なっ……!」
俺が天然!?
ばかな……!
「それは美咲だろ……!?」
「わ、私もそうかもしれないけど、来斗君だってそうだよ……! さっきの返しとか……!」
美咲は自分のことを否定せず、突っかかってくる。
自分については心当たりがあるからだろうけど、どうして俺まで天然扱いされるのか。
天然というのは、美咲みたいな子をいうというのに。
「いったいどこがだよ……?」
「私は、来斗君――か、彼氏さんがいてくれて心強いって意味で言ったのに、人数で心強いって捉えたところだよ……!」
彼氏というのに照れたらしく、美咲は若干頬を赤く染めながら、照れくさそうに言ってきた。
この子、本当にずるいと思う。
こんなかわいいところを見せられたら、まともに取り合えるはずがないじゃないか。
「どちらにでも取れるような言い方をされたんだから、仕方ないだろ……?」
「こういう時は、普通前者で考えるよ……!」
「それは恋人にとっての普通だろ……? 初めて恋人ができたばかりどころか、女の子を好きになったのも初めてな男に対して、そこを求められても困るんだが……」
偽彼氏として美咲を相手に経験を積んでいっているとはいえ、本当の恋人同士の雰囲気に関しては全然初心者だ。
恋人たちにとって当たり前のことだとしても、恋愛経験のない相手に通じるとは限らない。
「初めて……えへへ……」
俺の言葉に対して、美咲はヘニャァッとだらしなく頬を緩める。
現在俺が天然かどうかという話をしていたのに、完全に別方向に思考がいっているようだ。
やっぱり、彼女こそ天然だろう。
まぁこれで喜んでくれてることに関しては、嬉しいという気持ちもあるのだが。