第73話「甘えん坊の二人」
「み、見られてた……?」
心愛の頭を撫でていると、美咲が腰を屈めて心配そうに俺たちを見つめてくる。
「とりあえず隣に座りなよ」
このままでは心愛に丸聞こえなので、俺は隣に座るように促す。
幸い、心愛は撫でられるのに夢中で、美咲が言った言葉は気にしていないようだ。
「あっ……んっ……」
美咲はコクッと頷くと、心愛を驚かせないようにゆっくりと隣に座る。
そして――
「…………」
――羨ましそうに、心愛を見つめ始めた。
撫でられているのが、羨ましいのかもしれない。
……いや、もしかしたら、膝の上に座っていることだろうか?
付き合い始めたのだし、美咲を膝に座らせるのは全然いいのだけど……心愛が起きている時は、ここはこの子の特等席だ。
また心愛が寝ている時にお願いしたい。
そんなことを考えていると、美咲がチラチラと俺の顔を見上げてき始めた。
やっぱり、自分が撫でられるのを待っているのだろうか?
そう思っていると――。
「…………」
スススッという感じで、俺の腕にすり寄ってきた。
そのまま俺の肩に頭を乗せてくる。
どうやら、甘えたかったようだ。
「少しだけ、な?」
俺は心愛の頭から手を離し、美咲の頭を優しく撫でる。
本当は心愛優先のところだけど、美咲は付き合い始めたばかりなのだ。
さすがに、これくらいはしてあげないと可哀想だと思った。
――まぁ心愛は、自分の頭から手が離れると、不満そうに俺の顔を見上げてきたのだけど。
しかし、美咲が撫でられているのを見て理解したようで、コテンッコテンッと俺の胸に自分の後頭部を打ち付け始めた。
自分の番が来るまで、こうして遊んでおくつもりなのだろう。
「えへへ……」
撫でられている美咲は、かわいらしく幸せそうな笑みを零す。
付き合うふりをするまでのイメージは、人付き合いが良くて人当たりもいいかわいい女の子だけど、一定の距離感を保つ子というイメージだった。
それなのに、今ではすっかり甘えん坊だ。
今のほうがかわいいから、いいのだけど。
「――次は心愛の番だね」
「あっ……」
美咲を少し撫でた後、膝の上でおとなしく待っていた天使の頭を撫でる。
手が離れると美咲は寂しそうな声を漏らしたのだけど、少しの間我慢してもらうしかない。
今日は遅くまでいるようだし、帰りは送るのでその時に甘やかせばいい。
「んんっ……」
俺はそう割り切ったのだけど、美咲はそうではないらしい。
俺の腕に抱き着き、顔をグリグリと俺の腕に押し付けてきた。
なんだ、このかわいい生き物は。