第70話「言葉にしたい」
「しゅ、しゅきって……!」
先程から何度か悶えていたけれど、精神的に限界が来たようで美咲の滑舌がおかしくなった。
顔は相変わらず、頭から湯気が出そうなくらいに真っ赤なままで、目がグルグルと回っている。
というか、彼女の体に回している腕にドッと重みがかかったので、俺が放したら美咲は倒れてしまいそうだ。
とりあえず、せっかくここまで話を進めたのに気絶されると厄介なので、頬をムニムニと触ってみた。
「にゃ、にゃにしゅるの……?」
おかげで意識が戻ってきたらしく、美咲が照れくさそうに見つめてくる。
意外と、こうされるのは嫌じゃないらしい。
まぁ心愛もムニムニされるのが好きなので、人によるのだろう。
「美咲が意識を失ったら大変だからな」
なんせ、夢オチとか言い出しかねないんだから。
この子ならそう思い込む気しかしない。
なんなら、明日起きたら全て夢だった、とか言いかねないし。
そうならないよう、彼女が帰ったらちゃんとチャットでも送って履歴を残しておいたほうが良さそうだ。
「大丈夫だよ……」
頬から手を放すと、美咲は俺から目を逸らしながら気絶しないと否定をした。
しかし、目線が全てを物語っている気がする。
本人も自覚しているやつだ、これは。
「好きだなんて言われ慣れているだろうに、今更動揺しすぎだろ……」
美咲が告白をされた数なんて、彼女自身が思い出せないレベルのはずだ。
関係なかった俺でさえ、付き合っているフリをする前はちょくちょく見かけていたほどなのだから。
しかし――。
「す、好きな人に言われるのと、そうじゃない人に言われるのとじゃ、全然違うよ……!」
俺の発言が気に入らなかったらしく、美咲が勢い良く迫ってきた。
忙しい子だ。
「好きな人、か」
俺は彼女の失言を拾い、美咲の顔をジッと見つめる。
「あっ……!? い、今のは……!」
美咲も自覚したらしく、俺の手に回していた右手も放して、自分の口を両手で隠す。
俺に返事をする前に気持ちを自白するところが、なんとも美咲らしかった。
「今のが、返事だと思っていいのか?」
「それは……」
美咲はほんのりと汗をかきながら、俺から視線を再度逸らしてしまう。
こちらから告白をしているのだし、今更誤魔化す必要もないと思うが……。
「やだ……」
どうしたいのか待ってみると、美咲の口から出た言葉は否定のものだった。
一瞬、告白を断られたのかと思ったが――すぐに、話の流れ的に違うと思い直す。
俺はそのまま何も言わず、美咲の次の言葉を待った。
「ちゃんと、言葉にしたい……。もう、ずるいのは嫌だから……」