第69話「正直な気持ち」
「そ、それって……!」
落ち着くまで待とうかと思うと、呼吸が整う前に美咲が俺に顔をグイッと寄せてきた。
しかし、その先は言葉にしようとしない。
多分反応から見て、俺の気持ちは伝わったはずだけど――俺に、言葉にしてほしいんだろう。
「言葉にした通りだよ。俺は偽りじゃなくて、本当に美咲と付き合いたいんだ」
「~~~~~っ!」
正直に思っていることを伝えると、美咲はまた悶え始めた。
忙しい子だ。
でも、嫌がられてはいない。
俺と付き合ったふりをするようになった頃の彼女なら、きっと今の言葉では反射的に距離を取っただろう。
そうしないということが、彼女の心情が変化しているかどうかの答えだと思った。
「ど、どうして……!? 今まで、そんな様子全然なかったのに……!」
美咲は返事をするのではなく、質問をしてきた。
本人はいっぱいいっぱいだろうし、わざわざ突くような意地悪はしないでおこう。
「そりゃあ、遠回しに《そういう態度は見せるな》、という感じで釘を刺されていたしな」
「はぅっ……!」
彼女がなるべく気にしないよう笑いながら明るく言うと、美咲は苦しそうに左手で自身の胸を押さえた。
かろうじて右手では俺の体を抱きしめているのだけど、どうやらダメージを負ったようだ。
正直に答えただけだけど、意地が悪かったか。
「別に俺は気にしてないから、美咲も気にするなよ?」
「気にするよ、人としてどうかと思うもん……!」
美咲は涙目で声を荒らげる。
だったら、最初からそんなことを言わなければいいのに――と思うけど、あの頃の美咲は、自身を守るためというのと、俺に対する気遣いというので、ああやって予防線を張ったんだろう。
ちゃんとわかっているので、責めることはしない。
――まぁ、ちょっとめんどくさい性格をしているとは思うけど。
でも、そんなところもかわいいと思う。
手のかかる子はなんとやら~だな。
「美咲はまじめだからな」
「な、なんで笑うの……?」
笑みを浮かべて返すと、美咲は納得いかなさそうに見つめてくる。
馬鹿にされたとでも思ったようだ。
もちろん、俺の浮かべた笑みは馬鹿にするような意味のものではないのだが。
「仕方ないな~って思っただけだ」
「何が……?」
聞かれて思う。
こういうのは、なんて言ったらいいんだろう?
改めて言葉にしようとするのは、表現に困る。
まぁ、とはいえ――。
「美咲の、そういうところも好きだってことかな?」
きっと、それが全てだろう。
美咲の、まじめで空回りするめんどくさいところも含めて、俺は彼女のことが好きなんだ。
だから、笑って流せる。