第68話「やめたい」
「俺は偽をやめたいと思っているんだけど、美咲はそうじゃない感じかな?」
一応、もう少しだけ突いてみる。
「嫌だよ……! なんで!? やっぱり怒ってるの!?」
美咲は涙目で俺の首に抱き着いてくる。
離さない、という意思表示なのかもしれない。
うん……俺の問いかけに対する答え的には拒絶なのだけど、行動はやっぱり俺を受け入れてくれていると思う。
多分単純に、美咲は勘違いしているんだろう。
「落ち着いてくれ……」
そうじゃないと、ちゃんと話ができない。
「落ち着けないよ……! 来斗君がいじわるばかり言うんだもん……!」
美咲は涙声でイヤイヤと顔を横に振る。
俺の首に押し付けながらするものだから、髪が擦れるしグリグリとされてくすぐったい。
というか、別にいじわるは言ってないんだが……。
完全に頭に血が上ってるなぁ。
まぁ、内容が内容なのだから、仕方ないのかもしれないけど。
「何度も言っているけど、俺が美咲を嫌うことなんてないし、拒絶することもない。別に、別れようって言ったわけでもないんだから」
美咲が冷静になっていないので、噛み砕いて話をしてみる。
この辺は、心愛が癇癪を起こした時の対応で慣れていた。
「偽カップルをやめたいって、別れたいってことでしょ……!?」
「いや、誰も偽カップルをやめたいとは言ってないんだけどなぁ」
「言ったよ、さっき……!」
美咲は俺の背中をパンパンッと手の平で叩くことで、不満をアピールしてくる。
怒っていそうなのに割と弱めな力で叩かれているので、彼女はやっぱり優しいだろう。
「俺がさっき言ったのは、偽をやめたいってことだよ。偽カップルとは言っていない」
やはり勘違いしていたようなので、わかりやすく言い直してみる。
すると――
「…………」
――美咲は、フリーズしてしまった。
もうピクリッともしないくらいに、完璧に固まっている。
俺の言葉が理解できず、脳の処理が追い付いていないのだろうか?
そう思って見つめていると――
「~~~~~っ!」
――ボンッという音が聞こえそうなくらいの勢いで顔を真っ赤にし、急に悶え始めた。
やっと、通じたらしい。
話が面白い、美咲がかわいいと思って頂けましたら、
評価(↓の☆☆☆☆☆を★★★★★)やブックマーク登録をして頂けますと幸いです♪