第67話「解消は嫌」
「まだ話は終わっていないよ?」
「えっ……?」
顔を押し付けて甘えてきていた美咲に再度声をかけると、彼女の体が一瞬で強張った。
そして、恐る恐るという感じで俺の顔を見上げてくる。
こうなりそうだったから、優しめに言ったのだけど……意味はなかったらしい。
「怯えなくていいよ……多分」
「なんで多分なの!?」
ふと思うことがあって言葉を付けたすと、美咲は敏感に反応してきた。
気になるらしい。
「いや、まぁ……怯える必要はないと思う、うん」
「その含みを持った言い方が、逆に怖いよ……!」
うん、更に怯えてしまった。
まぁ今のは俺が悪かったか。
これから話すことは、美咲が怯えるようなことではないと思う。
だけど、もし俺の勘違いだったり、考えすぎだったりしたら――彼女を、傷つけてしまうかもしれない。
それどころか、気持ち悪がられたり、嫌われたりする可能性だってある。
こちらも、慎重に事を運びたいところなのだ。
「う~ん、どう切り出すべきか悩むな……」
「も、もしかして、偽カップルを解消するとか言い出すつもり……!?」
よほどネガティブになっているのか、美咲がとんでもない結論を出し始める。
普通に考えれば、話の流れ的にそうなるはずがない――というのはわかるはずだけど、今美咲は精神的にいっぱいいっぱいだろうから、冷静に判断することができないんだろう。
「――いや、解消することには変わりないのか?」
ふと思うところが出てきて、俺は独り言を呟いてしまう。
俺が今からしようとしていることは、《偽》ではなくなるためのものだ。
そういう意味では、確かに解消になるのかもしれない。
「はぅっ……! やっぱり、来斗君は私のことを嫌って……!」
思い直した際につい呟いてしまった言葉がどうやら聞こえていたようで、美咲の顔色が再び絶望のものへと変わる。
目の端には大粒の涙が溜まっているので、とても申し訳ないことをしてしまった。
「悪い、今のは言い方が良くなかった。まぁ解消するかどうかは、美咲次第だ」
決めるのは、彼女なのだから。
「じゃあしない! 絶対しないから!!」
俺はまだ話を続けるつもりだったのだけど、美咲は勢いよく食らいついてきた。
それだけ美咲は偽カップルという関係をやめたくないんだろう。
それを嬉しいと思う反面、足枷だとも思ってしまった。
多分美咲は、何も考えていないからこそなんだろうけど――偽カップルをやめようとしている身からすると、本当に踏ん切っていいのかどうか……という気持ちが生まれてしまうのだ。
とはいえ――もうここまで来たら、引かないほうがいいだろう。