第66話「答え」
「…………」
美咲の自白に、俺は思わず黙り込んでしまう。
そして美咲のことをジッと見つめると、彼女はワタワタと慌て始めた。
「わ、わかってるの、自分が最低だってことは……! 私から言い出したのに、何忘れているんだってことだよね……!」
俺の視線の意味を勘違いしたらしく、可哀想なくらいに慌てている。
そんな彼女を見つめていた俺は――
「ぷっ、あはは……!」
――思わず、笑ってしまった。
「なんで笑うの……!?」
俺の反応が意外だったらしく、美咲は困惑しながら俺の顔を見上げてくる。
本当に、怒られると思っていたんだろう。
「いや、美咲が天然で抜けているのはわかっていたつもりだけど、まさかここまで抜けてるとは思わなくて」
「ぬ、抜けてるって……確かに、そうかもしれないけど……!」
美咲は少し納得がいかない様子で、プクッと頬を膨らませる。
だけど、言い返すことはできないようだ。
そういう姿をかわいいと思いつつも、ふと思う。
本人は、気付いていないのだろうか?
普通に考えて、俺に《告白をしてくるな》、と言ったことを忘れていたところで、美咲が困ることなんてない。
何より、絶望したり俺に嫌われたりすることを気にするのはおかしいだろう。
少なくとも、俺に言ってきた時の彼女は気に留めてすらいなかったはずだ。
そんな彼女が、今絶望したり俺に嫌われることを気にしていたりするのは、当然彼女に心境の変化があったことを意味する。
そして《告白をしてくるな》が覆るようなことなんて――普通に考えれば、一つしかないだろう。
「考えすぎていた俺が、馬鹿みたいだな」
「えっ、えっ……?」
俺は笑顔で言ったのだけど、言っている意味がわからなかったようで、美咲は戸惑いながら不安そうに俺の顔を見上げてくる。
これで俺の読みがはずれていたら凄く恥ずかしいけど――あまり、不安な気持ちでいさせるのもよくない。
だから俺は、美咲の後頭部に手を回し、ソッと俺の胸へと彼女の顔を抱き寄せた。
「ら、来斗君……!?」
既に抱きしめてはいたのだけど、こうされるとは思っていなかったんだろう。
美咲は声を上ずらせながら俺の名前を呼んできた。
「まぁ自分から言っておいて忘れていることに、何も思わないわけではないけど――さすがに、こんなことで怒ることはしないよ」
まずは、美咲が今一番気にしているであろうことを、彼女に伝える。
「ほんと……?」
「あぁ、こんなことで嘘を言ったりはしないさ」
「そ、そっか……」
美咲は安堵したようで、強張っていた彼女の体から力みがなくなる。
それどころか、嬉しそうに俺の胸に自分から顔を押し付けてきた。
心配ごとがなくなったから、甘えたくなったんだろう。
でも、俺の話はまだ終わっていない。