第63話「とあることに気が付く学校のマドンナ」
「母さんは俺より鋭いから、バレても仕方ないさ。それで、なんて言われたんだ?」
「…………」
美咲が正直に話すように、優しい声を意識して尋ねてみると、美咲は黙り込んでしまった。
おそらく、俺に話すかどうか悩んでいるんだろう。
俺的には話してほしいけど、話すも話さないも彼女の自由なため、俺は黙って待つことにした。
やがて――美咲は、ゆっくりと口を開く。
「偽カップルは良くないよ、みたいな話をされちゃった……」
どうやら、正直に話すことにしてくれたようだ。
「まぁ、親目線からすると、そうなるよな」
偽カップルと聞いて、いいものを想像する人はそうそういないだろう。
特に親からしたら、なんでそんなことするんだ、という感情を抱いてもおかしくない。
まぁ母さんの場合は、美咲の事情とかわかってくれそうだけど……。
「俺じゃなくて美咲に注意したってことは、美咲が原因で始まった関係だってことも、見抜かれていた感じか?」
普通なら、息子である俺に言ってくるはずだ。
それなのに美咲に言っているのがおかしいので、原因が彼女にあることまで見抜かれたのだと思った。
しかし――。
「うぅん、それは違うと思う……。私が全て話したから、事情はもうお母様も知っているけど……」
美咲は、それは違うと言ってきた。
「そうなのか? じゃあ、なんで美咲に言ってきたんだ?」
彼女が何か知っていそうなので、俺はそのまま尋ねてみる。
「……言えない……」
だけど、美咲はほんのりと顔を赤くして、逸らしてしまった。
何か訳ありのようだ。
「俺と一緒にいる時は、美咲がボロを出したようにはなかったけど……俺がいない間に、美咲から何かバレるようなことをしたのか?」
「それも、違う……」
じゃあ、なんで母さんは美咲に注意したんだろう?
この様子を見るに、美咲は話しそうにないから母さんに後で聞いたほうがいいか?
「そんなことよりも……お母様は、偽カップルはいつか壊れるものだから、よくないって……」
あまりこの話はしてほしくないのか、美咲は話を元に戻した。
だから、俺も思考を切り替える。
「そりゃあ、この関係は高校卒業までだろうしな。俺は美咲と同じ大学に行ける頭じゃないし、そもそも進学するかどうかも怪しいから」
同じ学校にいなければ、美咲に寄ってくる男たちの抑止力にはなれないだろう。
それなら、当然この関係は終わる。
美咲が今の俺のような存在を求めるなら、大学で見つけてもらうしかない。
「私が勉強を教えることで、今から同じ大学に進む道も……?」
「勘弁してくれ……」
どうやら美咲は、ちょうどいい存在の俺を大学にも連れて行きたいらしい。
しかし、そんなこと無理に決まっている。
彼女と俺とでは学力も成績も全然違い、今から勉強したところで到底追いつけないだろう。
何より、心愛の面倒を見ないといけないのだから、そんな時間はない。
「受ける大学、私が来斗君に合わせるよ……?」
「そんなの、美咲のためにならないだろ? ちゃんと自分の学力に見合ったところに行ってくれ。そうじゃないと、俺は笹川先生に顔向けができない」
「うぅ……来斗君、まじめすぎるよ……」
美咲の提案を次々と断ったからだろう。
彼女は落ち込んでしまった。
だけど、志望校のレベルを下げることは本当に美咲のためにならないと思うので、こればかりは譲れない。
それに――。
「本当に付き合っているわけじゃないんだから、そこまでするのはおかしいだろ?」
「――っ」
思っていたことを言うと、美咲は明らかに動揺する。
母さんにも突かれただろうし、割と偽カップルに関して負い目を抱いているのかもしれない。
「安心してくれ。最初に美咲から、俺のことは好きになれないって言われているし、その時に、もし好きになっても告白をしてくるなって言われてるんだから、俺は割り切っているさ。だから、卒業するまではちゃんと――」
「えっ……?」
俺は、美咲が偽カップルのことを負い目に思わないよう、フォローをしようとした。
しかし――なぜか美咲は、俺の思惑とは逆に、血の気が引いたように青ざめた表情を浮かべたのだった。