第62話「勘のいい親子」
「…………」
部屋に戻ると美咲がいなかったのでかわいい心愛の寝顔を見つめていると、美咲が部屋に戻ってきた。
その表情は、なぜか落ち込んでいるように見える。
「どうかしたのか?」
心愛が一人になるのに部屋からいなくなっているから変だとは思ったが、何かあったのかもしれない。
「う、うぅん、なんでもないよ?」
しかし、美咲は取り繕うように笑みを浮かべた。
さすがに、それが作り笑いだということは見抜ける。
伊達に、ここ最近毎日のように一緒にいないのだから。
家族か友人からの電話で席を外していたのか、もしくは――。
「美咲、おいで」
「えっ……? い、いいの……?」
両手を広げると、美咲は戸惑ったような目で俺の顔を見てくる。
今更何を言っているんだ――という感じではあるが、やっぱり母さんに何か言われたようだ。
「駄目な理由がないだろ?」
「――っ!」
笑顔で首を傾げると、美咲は嬉しそうに腕の中に飛び込んできた。
そして、ギュッと抱きしめてくる。
本当に、甘えん坊な子だ。
俺はそんな彼女の頭を、優しく撫でながら――
「それで、母さんに何を言われたんだ?」
――早速、本題を切り出した。
「――っ!? な、なんで……!?」
俺にバレていると思っていなかったんだろう。
美咲は驚いたように尋ねてくる。
「なんでも何も、美咲はわかりやすすぎるからなぁ」
気が付いた理由は言わず、てきとーに思い付いた理由を伝えた。
「そ、そんなに……?」
「いつも顔と態度に出すぎだよ。まぁそのくらいわかりやすいほうが、俺は助かるけどな」
何かあってもすぐ気付くことができるんだから、悪いことばかりじゃない。
特に最近は気を付けているとはいえ、美咲は嘘を吐いて逃げる癖があるし。
誤魔化されて気が付いた時にはもう手遅れ――ってなるのが、一番よくないと思う。
それに比べれば、わかりやすいほうが助かるのだ。
まぁ、俺が女心に疎いから、そっちのほうが助かるってのもあるのだけど。
「…………」
美咲は俺から離れ、至近距離から上目遣いで俺の顔色を窺ってくる。
「その……お母様に、何か酷いことを言われたわけじゃないんだよ……?」
「あぁ、わかってる。俺の親だしな。偽カップルだってことがバレたか?」
酷いことを母さんが言うはずがなく、美咲のことを気に入っているのだから傷つけるようなことも言わない。
それなのに美咲が落ち込んでいるってことは、既に俺たちの嘘が見抜かれていてハッタリを食らい、美咲がボロを出した――というのが一番可能性高いと考えた。
何より、先程まで遠慮なく甘えていた美咲が、戻ってきてからは恋人らしいことをするのに躊躇する姿勢を見せたのが、引っかかったのだ。
結果――
「来斗君も、お母様も、勘が良すぎて怖いよ……」
――俺の勘は、当たっていたらしい。