第57話「疑似夫婦」
「そういえば心愛、母さんは何か言ってなかった?」
もう既に時刻はお昼過ぎで、俺も心愛はもちろん、美咲もお昼ご飯を食べていない。
母さんは美咲の分も作ると言っていたし、心愛が起きた以上は作り始めていてもおかしくないんだが――
「あっ……!」
――心愛が何か心当たりがある表情をしたので、多分この子が原因だな。
「なんて言ってたの?」
反応を見る限り絶対何か言われているので、俺は笑顔で優しく尋ねてみる。
「ごはん、つくるから……! ここあ、よんできてっていってた……!」
心愛は一生懸命俺の質問に答えてくれた。
どうやら心愛が来た本当の理由は、俺たちと遊ぶためではなく呼びに来ただけのようだ。
そんなことよりも、美咲と遊びたい気持ちが勝ったんだろうな……。
多分母さんも、俺たちが降りてこない時点で察している。
「作るからってことは、今作り中か」
「大変、お手伝いしないと……!」
俺が腰を上げると、美咲も青ざめた表情で心愛を抱っこしながら立ち上がった。
「何が大変なんだ?」
別に何も大変じゃないと思い、美咲に尋ねてみる。
「だって、このままだとお手伝いもしない子だって、お母様に思われちゃう……!」
あぁ、なるほど。
母さんの心証を気にしているのか。
「安心しなよ。母さんはそんな小さい人じゃないし、美咲のことは既に気に入っているみたいだから、俺と部屋で仲良くしているんだろうなぁって思ってるくらいだよ」
少なくとも、料理の手伝いをしなかっただけで何か悪いイメージを抱くような人ではない。
むしろ美咲に手料理を振る舞いたくて、張り切っているところだろう。
「ここあも、なかよし……!」
俺と美咲だけが仲良くしている、と捉えたのか、美咲の腕の中で心愛が手を挙げてアピールしてきた。
「そうだね、心愛も仲良くしているもんね」
俺は心愛の頭を優しく撫でて同調する。
実際母さんは、心愛が俺たちに甘えて降りてこない、と思っているだろう。
何より、俺も美咲も心愛が大好きなので、何も間違っていない。
「……これってよく考えると、疑似夫婦みたいなものだよね……?」
気持ちよさそうに撫でられている心愛に気を取られていると、美咲が何かボソッと呟いた。
すぐそばにいるのに、何を言ったのかまでは聞き取れなかったのだが――。
「ぎじ、ふうふぅ?」
心愛には聞き取れたらしく、キョトンとした表情で美咲を見上げながら小首を傾げた。
それにより、美咲の顔が一瞬にして真っ赤になる。
「あっ、いや、その……! こ、これは、別に他意はなくて……!」
よほど俺に聞かれたくなかったのか、美咲は質問をしてきた心愛ではなく、俺に対して一生懸命言い訳をしようとしていた。
その必死さに、俺は思わずクスッと笑ってしまう。
「あっ、酷い……!」
そしてその仕草は美咲に悪く映ってしまったようで、彼女は頬を膨らませてしまった。
おかげで、心愛も責めるような目で俺を見てきている。
「いや、悪気はないんだが……別に、そんなに必死にならなくていいんだぞ? ちゃんとわかっているからな」
俺は心愛の頭を再度撫でることで落ち着かせつつ、美咲には笑顔を返した。
「えっ、それって……」
「幼い心愛を、男女二人で面倒見てるからってことだろ? 言いたいことはわかるし、傍から見たらそうだろうな」
「…………」
一瞬表情が明るくなった美咲は、俺の続きの言葉を聞くとなぜか目を細めてジト目を向けてきた。
おかしい、フォローしたはずなのに。
「にぃに、だめ」
美咲が不機嫌になったのは心愛も感じ取ったらしく、俺の頬に頑張って手を伸ばして、ペチペチと叩いてきた。
俺が悪いって言いたいんだろう。
何を話していたか、理解していないはずなんだけどな……。
「悪かったよ、本当に馬鹿にしたわけではないからさ」
心愛も敵に回ってしまったので、ここは素直に謝っておくことにした。
まぁデリカシーのないことをしてしまった、とも思うし。
「……来斗君って、察しがいいのか悪いのかわからないよね」
美咲は許してくれたのか、それともまだ不満を持っているのかわからないが、ツンツンッと俺の頬を人差し指で突いてきたのだった。
心愛、美咲がかわいいと思って頂けましたら、
評価やブックマーク登録をして頂けますと幸いです♪