第55話「天使」
「心愛、起きたんだね」
部屋の中を覗き込んできたかわいい妹に、俺は笑顔で声を掛ける。
母さんから美咲のことを聞いて、自分から遊びに来たんだろう。
美咲は少し寂しそうに俺から離れたが、幼い子優先なので仕方がない。
そして、肝心な心愛といえば――。
「にぃに、ここあをおいていった……!」
頬を膨らませて、俺に怒っていた。
どうやらソファに寝かせたのが気に入らなかったようだ。
「寝てたから、起こすのは可哀想だと思ったんだ」
「ここあも、ねぇねとあそびたかった……!」
説明をするものの、幼い心愛には納得してもらえない。
部屋の中に入り俺に向かってタタタッと駆け寄ってくると、ポカポカと俺の胸を叩き始めた。
本人は怒っているんだけど、やっていることがかわいくて自然と頬が緩んでしまう。
「美咲はまだまだいるから、遊んでもらったらいいよ」
母さんがいるとはいえ、美咲は帰る気はないだろう。
遊びに来た彼女はいつも外が暗くなるまで家にいるので、遊ぶ時間は沢山ある。
「ねぇね、あしょぶ?」
美咲と遊びたい心愛は怒りが収まったのか、部屋を覗き込んだ時と同じように美咲へと視線を向けた。
小首を傾げて尋ねているけど、これは質問ではなく誘いだ。
頷く以外許されない。
「うん、遊ぼうね。何して遊ぶ?」
当然美咲も断ることはなく、笑顔で心愛に尋ねる。
心愛は俺から離れ、美咲の膝に倒れ込んだ。
「んっ……!」
美咲の太ももに心愛は頬を擦りつける。
遊ぶというよりも、甘やかしてほしいんだろう。
「抱っこしてあげると喜ぶよ」
「そうだね。心愛ちゃん、おいで」
俺が促すと、美咲は心愛に対して両手を広げる。
それにより、心愛は美咲の胸に飛び込んだ。
「えへへ……」
スリスリと美咲の胸に頬を擦り付ける心愛。
相変わらず甘えん坊だ。
兄としては寂しさがあるが、妹の幸せそうな姿を見ているのは気持ちがいい。
「本当に心愛ちゃんは天使だよね……」
心愛の頭を撫でながら、美咲が蕩けた表情を浮かべる。
こんなにもかわいい子に甘えられれば、誰だってこうなるのだ。
「ここあはね、てんしだよぉ?」
俺や美咲が天使天使というものだから、心愛は自分を天使だと思い始めたようだ。
――いや、さすがにないけど。
単純にノリで言っているだけだろう。
天使がどういう存在か、というのは幼くても理解している。
「かわいすぎて、お持ち帰りしたい……」
「それは怒るからな?」
ギュッと心愛を抱きしめた美咲に対し、俺は苦笑しながら忠告するのだった。
美咲、心愛ちゃんがかわいいと思って頂けましたら、
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